2022.12.25 17:00
第5部 近世に活躍した宗教人
⑨カール・バルト
岡野 献一
『FAXニュース』で連載した「キリスト教信仰偉人伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部が加筆・修正)
原理を深く理解する視点を残す
第1次、第2次世界大戦が勃発した激動の時代に現れたカール・バルト(1886-1968)。彼の神学は危機神学、弁証法神学、神の言葉の神学などと呼ばれ、キリスト教史における記念碑的な著作であるトマス・アクィナスの『神学大全』、カルヴァンの『キリスト教綱要』などと比肩される、9000ページ以上に及ぶ『教会教義学』を著して20世紀最大級の神学者と称されています。今では「バルトの時代は終わった」と言われますが、しかし彼の確立したキリスト論集中型の神学は、統一原理をより深く理解するための一つの視点を与えるものです。
20世紀最大級の神学者
さて、カール・バルトは1886年5月、スイスのバーゼルに生まれます。
父はカルヴァン主義の流れである改革派教会の牧師で、極めて保守的な信仰をもっていました。父は、息子も保守的信仰をもつことを願い、保守的神学を修めることを期待していました。ところが若きカールは父の意に沿わず、当時、台頭していた、聖書を相対化して見る「自由主義神学」を学び、ハルナックなどに魅了されていったのです。
19世紀以降のヨーロッパでは、聖書批評学の進展によって聖書無謬(むびゅう)説の崩壊が顕著となり、聖書の霊感説は否定され、イエスを神ではなく、一個の人間にすぎないとまでとらえるようになっていました。また、キリスト教を「啓示宗教」と見る前提を捨て、その成立過程を周辺の諸宗教や諸文化と比較するなかで史的に検証しようとする「宗教史学派」の潮流が、神学界全体をのみ込もうとしていた時代でした。
しかし、第1次世界大戦の勃発を契機に、バルトは自由主義神学の限界を悟るようになります。彼は、パウロの『ローマ人への手紙』を精読し、1916年から『ロマ書講解』を執筆し始めます。その中で、人間の努力によらずして、神の恵みとして、人の姿をとって現れたイエス・キリストという「神の啓示」を発見するのです。
ヒトラー政権に抵抗 バルメン宣言発表
バルトは、本来、「神の啓示」から宗教を理解すべきなのに、自由主義神学をはじめ、宗教はいつも人間側の努力によって啓示を理解しようと試みる「本末転倒の神学」になっていると批判します。そして、神の啓示とは、神がイエス・キリストとして歴史に現れたことにほかならず、それこそが「神の言葉」であるというのです。
バルトはアンセルムスやカルヴァンの著作を研究するなかで、自由主義神学を完全否定し、神の姿として現れたイエス・キリストが唯一の啓示とするキリスト論集中型の神学を確立していきました。彼は第2次世界大戦の時台頭してきたヒトラー政権に対し、神ならぬ人間を拝してはならないとして1933年に告白教会を結成。翌年、キリストに徹底的に服従すべきことを目指して「バルメン宣言(*1)」を出します。
このように、バルトは人間側から先立とうとするアプローチを拒み、まず「啓示」からすべてを理解すべきだという極端な神学を打ち立てました。バルトは人間の理性的アプローチとして自然を観察すれば神が分かるとする「自然神学」を徹底的に嫌い、それを認めるブルンナーと論争しました。
ところで、ブルンナーと同様、自然神学を認める統一原理ですが、創造原理から見れば、キリスト論集中型の神学であるバルトにも、一理あったことが分かります。
統一原理では、神は創造に際し、ロゴスである創造原理を立て、最初に神の完全な似姿である完成アダム(キリスト)とエバを形象的に考えたと見ます。その人間を標本にして、象徴的存在として万物を考え、そうして次元の低い万物から創造を始められたとします。故に、キリストこそが完全な神の顕現であり、キリストを通さずして真の意味で神を知ることはできないと見ます。万物や未完成アダム(人間)では、神を誠に知ることはできません。
その意味で、統一原理はバルトとブルンナーの論争を終わらせて、カトリック神学とバルト神学とを和解させる優れた観点をもっているといえます。
そのほか、バルトはカルヴァン主義の「二重予定説(*2)」を修正し、万人救済論へと近づけました。この予定論の問題も、『原理講論』の予定論に明確な答えがあります。その意味でバルト神学は、統一原理をより深く理解するために現れてきた神の摂理であったといえます。
*1 ナチズムの台頭に対し、ドイツの過半数のプロテスタントは追随した。この事態を黙視できなくなったバルトらが、ナチズムに迎合するドイツ的キリスト者と闘うため、1934年に宣言したもの。
*2 カルヴァンによって提唱された神学思想。神の救済にあずかる者と、滅びに至る者があらかじめ決められているとする。救済されるのは特定の選ばれた人に限定される。
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次回は、「ルドルフ・ブルトマン」をお届けします。