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「性解放理論」を超えて(62)

ポストモダン・フェミニズム~①クリステヴァ

 「統一思想」すなわち「神主義」「頭翼思想」によって生きるのか、神の言(ことば)を否定する思想を選択するのか…。
 「『性解放理論』を超えて」を毎週月曜日(予定)にお届けします。

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大谷明史・著

(光言社・刊『「性解放理論」を超えて』より)

六 フェミニズムを超えて
(二)ポストモダン・フェミニズム

 ポストモダン・フェミニズムを代表するのがクリステヴァ、イリガライ、シクスーです。彼女たちの主張は、言語自体が、男性中心の家父長的なものになっていて、女性を抑圧していると見て、それを攪乱(かくらん)あるいは対抗しようとしたのです。以下にポストモダン・フェミニズムの要点と、それに対する「統一思想」の見解を述べます。

▲言語(言説)による女性の抑圧

1)クリステヴァ
 クリステヴァは、ラカンの想像界と象徴界の関係を、彼女自身の言葉、原記号界と象徴界の関係に置き換えて概念化し直しました(※1)。原記号界は、母に深く結びついた幼児の初期のリビドー的衝動、つまり前エディプス期の原初的衝動に結びついていると言います。ソフィア・フォカによれば、原記号界は「家父長的な象徴秩序に対しては、攪乱的で創造的な力をもつ(※2)」ものであり、閉鎖を破り、象徴界を粉砕するものです。そして「クリステヴァの原記号界は前言説的・前言語的で、リズム・トーン・色など、前表象的なものすべてに関わっている。……芸術のなかに、そして詩的言語においても、現前している(※3)」と言います。

 ジュディス・バトラーが言うように、クリステヴァは原記号界を象徴界の中に持ち出して、象徴界における「父の法」(規範)を攪乱し、破壊しようとしました。そして「父の法」のかなたにある快楽──詩的言語や母性の快楽──を目指したのです(※4)。クリステヴァの言う、前エディプス期における母子関係とは、母と一体化した快楽の空間でした。

 クリステヴァは、法のかなたに始原的な母性の快楽があるが、父の法であるロゴス(論理、規範)が母性の快楽を抑圧し、遮断していると見ており、象徴界の中に原記号界を持ち出して、象徴界を攪乱しようとしたのです。

 「統一思想」の観点から言えば、法(規範)のかなたに真の快楽があるのではありません。法(規範)とは、真(まこと)の愛を実現するための愛の道標です。法(規範)を逸脱した愛は真なる愛とはなり得ません。

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1 ポストモダン・フェミニズムにおいて、ラカンの言う現実界、想像界、象徴界の三界の中の現実界の記述が見られず、想像界と象徴界の二界の対比が述べられています。ここでは現実界は想像界に組み込まれているようです。そしてクリステヴァはそれを原記号界と呼んでいます。
2 ソフィア・フォカ、レベッカ・ライト『ポストフェミニズム入門』(64
3 同上(159
4 ジュディス・バトラー、竹村和子訳『ジェンダー・トラブル』青土社、1999163

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 次回は、「ポストモダン・フェミニズム~②イリガライ」をお届けします。


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