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勝共思想入門 10

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「勝共思想入門」を毎週木曜日配信(予定)でお届けします。
 同書は、40日研修教材シリーズの一つとして、1990年に発行されました。(一部、編集部が加筆・修正)

光言社・刊

第三章 宗教の発生とその役割について

一 フォイエルバッハの考え

 さて、マルクスが、キリスト教神学を基礎としていると述べたヘーゲルの哲学から最終的に別れを告げて、経済学研究へと歩みを進めることができる糸口を見いだすことができたのは、フォイエルバッハ(180472)によるといえるのです。フォイエルバッハは、その主著『キリスト教の本質』(1841年)において、神は人間がつくったものと結論づけ、神を信じ、神にゆだねるという生活がかえって人間の愛の実践を妨げ、人間から人間らしさを奪っているとしました。そして、人間が、本当の人間らしさ=愛の実践者=となるためには、神を否定しなければならないとし、神の愛より人間の愛による理想社会の実現を訴えたのです。神を信ずることが、人間の自己疎外(人間が人間らしさを失うこと)であるとしたのです。

 さて、このフォイエルバッハの宗教観とはどのようなものだったのでしょうか。そして、どのようにして神否定の結論へ至ったのかその経過を見てみましょう。

 フォイエルバッハの思想全体を貫くものは、「死と不死について」(彼の最初の作品名と同じ)というテーマです。ここからすべてが出発し、ここに戻るのです。フォイエルバッハにとって宗教とは正に人間の不死に対する信仰にほかならないのです。人間には、他の動物にない感情、死の恐怖がある。この死の恐怖から逃れようとして、宗教を求めるというのです。

 それでは、どうしたらこの死の恐怖から人間は逃れることができるのでしょう。ここに二つの道があるとするのです。まず一つは、いわゆる彼岸信仰です。だれでも肉体をもったまま永遠に生き続けることはできません。現世においては死を免れることはできないのです。それゆえ、来世、つまり彼岸において不死の生命、永遠の生命を得ようとする信仰の姿勢です。もう一つは、来世や彼岸を否定するものです。少し分かりにくいのですが、個人の不死を認めず、人類の、すなわち人間性の不死を信仰することによって死の恐怖を克服しようとする立場であるというのです。彼の思想の原点でもあるのでもう少し詳しく述べてみます。

 「正真正銘の死があるということを人間が再び認識するときに於いてのみ、人間は新しい生活を始める勇気を得、絶対的に真実で、実体的なもの、真実に無限なものをみずからの精神活動の主題と内容としたいというさし迫った欲求を感ずるであろう。人間が死の真理を承認し、死をもはや否認しなかったときにおいてのみ、人間は真の宗教性、真の自己否定をよくするであろう」(フォィエルバッハ『死と不死について』)と述べています。

 来世、彼岸信仰は現実の生活を色あせたものにしてしまう。信じてさえいればあの世で良い生活ができるのだからそれでいい。このような考え方から、しいて自分を犠牲にしてまで人のために尽くすことなどないと考えてしまうというのです。生活の中心が今の行動をどのように選択すべきかでなく、肉体の死後の来世にあるのですから当然、このような判断になってくるというのです。

 フォイエルバッハはこのような信仰の姿を、当時のキリスト教信徒の中に見たのです。現実には多くの人々の苦しみがあるのに、それを積極的に行動をもって解決しようとしないキリスト教信徒の姿があったのです。

 フォイエルバッハの最大の関心事は、誤った彼岸、来世信仰から、現世における人類の不死への信仰に人々の生活を変えることであったといえるのです。

 現世における人類の不死への信仰とはどういうことかというと、前に挙げたフォイエルバッハの著作の内容から、次のようなことをいっていると思います。

 来世信仰が無意味であることを知り、人間の死を直視するとき、当然そこから生まれることは今を大切に生きたい、最も価値ある生き方でありたいという欲求であるはずだというのです。

 言葉を換えていえば、今を永遠に生きるというのでしょうか、一瞬にして消え去ってしまうような生き方ではなく、絶対的かつ、普遍的な、つまり永遠性ある一瞬一瞬でありたいと願うようになるのだというのです。フォイエルバッハが、「現世に於ける不死」と表現したのは、このような永遠性、普遍性、絶対性をもつ原理をいったものと思うのです。このような原理は不死なのです。

 ともかくフォイエルバッハにとっての宗教の発生の理由は、有限な人間のもつ死への恐怖であったことを確認しておきたいと思います。

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 次回は、「マルクスの考え」をお届けします。

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