2022.10.30 17:00
第5部 近世に活躍した宗教人
①スウェーデンボルグ
岡野 献一
『FAXニュース』で連載した「キリスト教信仰偉人伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部が加筆・修正)
霊界について書きつづる
『天界と地獄』の著作などで知られるエマヌエル・スウェーデンボルグ(1688-1772)。彼は著作活動のために生涯12度にわたる海外旅行をし、多くの書物を残しました。彼の思想は正統派キリスト教から異端視されたにもかかわらず、『天界と地獄』は世界40か国語に翻訳。1810年には「スウェーデンボルグ協会」が設立されるなど、後世に大きな影響を与え、日本を代表するキリスト者の内村鑑三や賀川豊彦にも影響を与えています。
天文、工学分野で天才性を発揮
スウェーデン国はルーテル(ルター)派が基盤をもつ国で、スウェーデンボルグの父は国王カルル11世に仕える宮廷専属のルーテル派の牧師でした。母は裕福な鉱山所有者の娘で、スウェーデンボルグは父の職業を選ばずに、科学者として天文学や機械工学を修め、やがて母の家系にならって鉱山技師の道に進んでいくのです。
若き日のスウェーデンボルグは、数学、医学、天文学に関心をもち、イギリスやフランスに遊学。さまざまな知識を身に付けていきます。彼は天文学や機械工学の分野で天才的な才能を発揮し、工学的発明品を考案します。潜水艇、自動空気銃、航空機、自動演奏機、水時計、鉱石巻き上げ機など、彼の天才ぶりは、ロンドンの王立航空協会が、彼の航空機を「空を飛ぶ機械の最初の合理的な設計」と評していることからも分かります。
1743年、55歳の時に、突如として転機が訪れます。彼は神秘的な体験を通して、神学者としての道を歩むようになっていくのです。
彼は人体の組織と機能に関心をもつようになり、研究目標を、植物、動物、人体などの生物界に向けていきます。そして人体を治める霊魂の所在と働きを突き止めたいという探求心から、解剖学に専念するようになるのです。「霊魂とは何か。肉体とは何か。それらの相互作用とは何か」を追求するなかで、彼の人体研究は「大脳皮質論」に至っていきます。彼が究明した所説は、脳外科学者ペンフィールドが約200年後の1952年に発表した大脳皮質の機能分担図と一致しており、すぐれた研究成果です。
彼は解剖学と霊魂探求をする中で、『霊魂の王国』の執筆のため外国旅行に出掛けます。彼は旅行中、日記を付けますが、1744年3月から10月までの約7か月間は『夢日記』と呼ばれ、神秘体験の記録となっています。
1744年4月6日、イエス様を幻視します。その時、イエス様は彼に「聖書の霊的内容を啓示するために汝(なんじ)を選んだ。何を書くべきかを汝に示そう」と語りかけられたといいます。
膨大な神学著作 正統から異端視
その後、スウェーデンボルグは膨大な神学著作を書いていきます。それらの内容は、いわゆる「正統派」と呼ばれるキリスト教からは異端視される内容でした。
キリスト教神学では、肉体の死をも堕落の結果と見ます。使徒信条に「身体のよみがえり、永遠の生命を信ず」とあるように、完全に救われた人間は栄光の体をもち、永遠に死なないというのです。故にキリスト教は霊界という「死後の世界」を否定するようになります。
ところが彼は、死とは「絶滅ではなく、生の連続であり、一つの状態から別の状態への移行にすぎない」と述べ、霊界を当然のこととして論じるのです。彼は霊にも身体と精神があると主張し、霊人体という統一原理の考えと一致しています。また、彼が見聞きしてきた死後の世界についても克明に書きつづっています。
そしてスウェーデンボルグは従来のキリスト教神学に対して批判するのです。特にキリスト教神学の核心ともいうべき、①三位一体 ②奴隷意志 ③代理贖罪説 ④予定説 ⑤信仰義認論――は誤っていると主張。当然、彼は異端者として批判されていくのです。
彼が見通した1759年のストックホルム大火災の「千里眼」は有名であり、また、1772年3月29日の自分の死を予告し、その通りになったことも有名な話です。
霊界を説いた彼は、教条主義に陥ったキリスト教が、イエス様の教えに立ち返り、再臨主の前に導かれるように神が準備した人物であったといえます。
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次回は、「ジョン・ウェスレー」をお届けします。