世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

習近平主席、演説で台湾への武力行使に言及

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、1010日から16日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 NATO(北大西洋条約機構)、ロシアを視野に核抑止に関する演習実施へ(11日)。ロシアのウクライナ4州併合は「無効」、国連総会で採択/賛成143カ国(13日)。北京で「習主席批判」横断幕騒動(13日)。韓国が対北朝鮮制裁へ 約5年ぶり(14日)。中国共産党大会が開幕(16日)。習氏「団結と協力」金氏に答電(16日)、などです。

 5年に一度の中国共産党大会が1016日、開幕しました。注目された習近平主席の政治報告(党中央委員会報告)は今回、途中、咳をする場面もあっての1時間44分。前回は3時間半、汗を拭きながらの大演説でした。

 報告のポイントは以下のとおりです。
◆中台統一で武力行使は放棄しない
「ゼロコロナ」で人民の安全と健康を守った
今後5年が社会主義現代化の鍵となる
科学技術の自立自強を堅持する
覇権主義、内政干渉、ダブルスタンダードに反対
政権や制度の安全を守り、食糧、エネルギー、供給網の安全を確保する
など

 特に関心が集まった「台湾統一」については、「必ず実現しなければならず、また、必ず実現できる」と強調、「平和的統一に向けた最大限の努力をしている」とも述べましたが、「決して武力行使の放棄を約束しない」と明言したのです。

 習氏は、これまでの演説でも台湾について語ってきました。
 前回の201710月、「いかなる形の分裂活動も打ち破る意思がある」と語りましたが、武力行使についての直接の言及はありませんでした。

 共産党創建100年を祝う演説(20217月)では、「祖国の完全統一は党の歴史的任務」と述べましたが、やはり、武力行使についての直接の言及はなかったのです。

 ところが今回の政治報告では、「独立勢力の挑発に国家主権と領土を守る決意を示した」としつつ、中台統一で武力行使は放棄約束せず、と明言しました。初めてのことです。

 中国は今がピーク、陰りも見え始めています。
 不動産バブル崩壊を契機に経済が減速傾向となり、ゼロコロナ政策がそれに拍車をかけています。少子高齢化が急速に進行し、教育費の負担増などで出生数の伸び悩みが続いています。

 東シナ海、南シナ海での一方的な進出や政治的に対立した相手に経済面で威圧する外交を繰り返したために、国際社会からの中国への警戒感はかつてなく高まっています。新疆(シンチャン)ウイグル自治区における人権侵害に関する国連報告書の発出などが拍車をかけています。

 バイデン政権は同盟国や友好国と連携を深めるかたちでインド太平洋戦略を推し進め、中国への包囲網構築を急いでいます。
 時間は中国に味方しないことが明らかになりつつあります。台湾奪回への動きは近いとみておくべきでしょう。



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