2022.09.12 17:00
コラム・週刊Blessed Life 232
二人の歴史的指導者の死は何を意味するのか
新海 一朗
この8月と9月、相次いで世界的な二人の人物が亡くなりました。
一人はロシアのミハイル・ゴルバチョフ元大統領(8月30日死去、91歳没)、もう一人は英国のエリザベス女王(エリザベス二世、9月8日死去、96歳没)の二人です。
謹んで心から哀悼の意を表します。
激動の20世紀を生き抜き、21世紀に至るまで、国内外に多大な影響力を持った二人であり、その一生は波乱に富んだものであったと言ってよいでしょう。
ゴルバチョフと言えば、欧米世界では、米ソの冷戦を終結させ、自らの手でソ連帝国を終わらせた歴史的人物として高く評価され、1990年にノーベル平和賞を受賞しています。
しかし一方で、ソ連国内から見れば、ソ連を崩壊させ、その威信をなくして世界の前に大きな恥をさらしたという評価がほとんどで、ロシア国内での国民の人気は全くなかったという両側面があります。
ソ連崩壊後のロシアの国家建設が順調にいかなかったエリツィン時代の害悪(新興財閥=オリガルヒと西側資本家が組んで、ロシアの富=石油・天然ガスを食い尽くそうとした一連の西側に利するゆがんだ資本主義の弊害)が目に余るものであった時、エリツィンに代わってプーチンが登場し、新興財閥とプーチンの壮絶な戦いが始まります。
結局、プーチンは時にオリガルヒをたたき、あるいは味方に懐柔しながら、自らの座を不動のものにしていきます。こういうロシア国内の変化を見続けていたゴルバチョフの胸中は複雑でした。
ゴルバチョフは、ノーベル賞の賞金を基に「ノーヴァヤ・ガゼータ」(「新しい新聞」の意)を創刊し、大株主として、プーチン政権のやり方に対する批判的な論陣を張ります。
この新聞に投稿する記者や寄稿者が6人も殺害された事実は、民主主義的な改革を嫌ったプーチンの激しい怒りの犠牲者であったことは否定できません。
エリザベス女王は、第2次世界大戦後の英国に長く君臨(在位:1952~2022、70年間)しました。
19世紀のパックス・ブリタニカ(英国による平和、ビクトリア女王時代)の面影を失った英国でしたが、それでも、英連邦の国々から女王として尊敬を受けた存在感は見事であり、その威厳は英国を英国たらしめるものであったと言わざるを得ません。
王室に起きた不祥事なども乗り越え、英国の尊厳を世界に示し続けたのです。
最後の仕事として、ジョンソン首相の跡を継ぐことになったメアリー・エリザベス・トラス氏を9月5日に新首相として任命したばかりという、その3日後の9月8日に、エリザベス女王は帰らぬ人となりました。
エリザベス女王と同じ名前を持つトラス新首相は、ウクライナ戦争を進行させているプーチンのロシアに非常に厳しい態度を表明しています。
それはまるで、同じ時期に亡くなったゴルバチョフの民主主義実現への思いを英国は断固支持し、全体主義的なプーチンのロシアを支持することはないと宣言しているような姿に映ります。
こうして見ると、英国はヨーロッパ諸国の中でもサッチャー元首相に見られたように、フランスやドイツに比べて、共産主義、全体主義と戦う精神の強いお国柄であることが分かります。
トラス首相が「第二のサッチャー」と呼ばれるところがあるという事実は面白いと思います。
ただ、英国ならびにEU(欧州連合)諸国は、エネルギー問題でロシアの天然ガスや石油が入らない分、追い込まれており、エネルギー価格の高騰で、厳しい冬を迎えようとしています。
11月8日の米国における中間選挙で、米国政治に共和党勢力の巻き返しが見られるならば、必ず、ロシアに対する防波堤の役割を務めるEU諸国に対して、米国はエネルギー問題で手を差し伸べるだろうと思われます。
なぜなら、米国とヨーロッパは民主主義の価値観において運命共同体であるからです。欧州を弱体化させるという選択肢はありません。特に、英国は今後ますます米国との関係を深める傾向に進むものと思われます。
民主主義の理想に向かって格闘したゴルバチョフ、英国の尊厳を保ち続けた反共産主義国家の女王、エリザベス二世。
二人の死の時代的な意味は、どこかでつながっているのではないでしょうか。