コラム・週刊Blessed Life 231
中国のウイグル自治区での人権侵害を国連が公表

新海 一朗

 9月1日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、中国の新疆(シンチャン)ウイグル自治区の人権状況について、「テロ対策などを名目に深刻な人権侵害が行われている」との指摘を明白にした報告書を公表し、中国政府に対し、拘束されているウイグル人たちを解放するよう求めています。

 今年5月、バチェレ人権高等弁務官は、中国政府の招待で新疆ウイグル自治区を視察に訪れていました。
 その時は、6日間の滞在中、2日間新疆ウイグル自治区を訪れていましたが、中国側の政治的圧力もあって、ウイグルの人々の人権問題(100万人が収容所に拘束監禁されているとされる)を発表するには至りませんでした。

 ミチェル・バチェレ女史は人権高等弁務官を辞任する(831日に辞任)タイミングを狙って、一気に公表に踏み切った形です。
 ウイグル人の人権問題に関しては、その実態を公表すべきであると主張を重ねてきた米国と、公表をずっと止めてきた中国との間に「暗闘」が続いていました。
 米中対立の主要な懸案事項が「新疆ウイグル自治区の人権侵害問題」であったというわけです。

ミチェル・バチェレ前人権高等弁務官(ウィキペディアより)

 報告書の内容は、結論として、ウイグル自治区での人権侵害は真実であること、証拠はたくさんあり、証人もたくさんいること、施設が多く造られ、そこにウイグル人、またイスラム教徒が収容されていること、これらの施設の存在とウイグル人の収容は違法であり、反人類の大罪であることを明確にしています。

 具体的に言うと、

①中国政府は反テロ運動の名目で施設を造り、ウイグル人、イスラム教徒を施設に収容している。人権の侵害問題はずっと続いている。

②中国政府がやっていることは、一時的な勾留ではなく、監禁である。

③収容所の中では、虐待、体罰が行われている。生活環境は最悪である。イスラム教徒にイスラム法を破るように、豚肉を食べさせようと強要している。女性に対して、性的虐待も行われている。女性に対して、妊娠できないように手術を行っている。

④強制労働は真実である。

⑤外国のメディアに真相を公開するウイグル人、外国に亡命したウイグル人、彼らの家族を逮捕し監禁している。

 以上の内容を、バチェレ女史は公表しました。

 彼女は辞任を前に、このような反人類的な中国政府の罪悪行為を黙っていることができず、自分の良心に恥じない最小限度の責務を果たすことを決意し、中国の政治的圧力をはねのけて、公表に踏み切ったのです。

 5月の中国訪問の際、バチェレ女史に対する失望や非難の声が多く上がりました。中国に対して物が言えない、弱腰だ、ウイグル人の苦しみを本当に考えているのかなど、厳しい国際世論にさらされました。

 それらの非難は、もちろんそうであるとしても、バチェレ女史の背景を追うと、彼女もまた受難の人生をたどった女性の一人であり、彼女なりの精いっぱいの対中国外交、巨大な中国政府の政治的圧力との闘いであったのだと思われます。

 バチェレ女史はチリの元大統領(2006~2010、20142018)です。ピノチェト軍事独裁政権下で逮捕された彼女の父親は、連日の拷問の末に獄死し、自身も拘束された経験を持っています。
 多くの実績を上げながらも、ウイグル人権侵害問題ではつまずいたバチェレ女史であるとはいえ、最後に、報告書の発表で中国に大きなパンチを食らわせたと申し上げたいと思います。