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ゴルゴタの丘

(光言社『FAX-NEWS』通巻877号[2004年2月25日号]「四大聖人物語」より)

 『FAX-NEWS』で連載した「四大聖人物語」を毎週月曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部が加筆・修正)

▲山上の垂訓(ウィキペディアより)

 「そこまで言うなら、イエスを処刑するほかない」。ピラト総督は人殺しのバラバを釈放し、イエスの処刑を許しました。

 処刑が決まった者は見せしめにされます。イエスは鉄のとげが付いたむちで打たれた後、ローマの兵士たちに引き渡されました。

 死刑になる人間に哀れみなどかけません。兵士は、――ユダヤの王と言っているのだから、王のかっこうをさせてやろうじゃないか――と、衣をはぎ取って薄汚れた赤い外とうを着せ、さらに、王の持つ杓(しゃく)の代わりにアシの棒を持たせ、王冠の代わりにいばらの冠を頭に乗せました。

 侮辱してイエスの前にひざまずき、「ユダヤ人の王、万歳」と言い、アシの棒を取り上げて頭をたたいたり、つばをはきかけたりしたのです。

 こうしてローマの兵士たちはイエスを散々侮辱したうえで元の衣を着せ、ピラトの官邸から引き出し、イエスは自分自身が架かる十字架を背負わされ、処刑場へと追い立てられていきました。

 弱りきったイエスは十字架の重みに耐えられず、何度も転びます。途中、兵士らは代わりにシモンという黒人に十字架を背負わせ、イエスの後からついて行かせました。

 イエスに同情を寄せる人々と、悲しむ女たちが後を追います。イエスはついてくる女たちに向かって、「私のために泣くことはない。それより、お前たち自身と自分の子供のために泣くがいい」。

 これから起こるエルサレムの運命、飢え、病疫、戦乱、虐殺のために泣けというのです。子供を産めない女と産まなかった女は幸運だ、という時が来るというのです。

 イエスは城壁の外にある、ゴルゴタ(されこうべ)の丘と呼ばれる処刑場に引かれていきます。他に2人の犯罪者も一緒です。

 人々はイエスを十字架につける前に、ユダヤの習慣にならって、麻酔としての没薬(もつやく)を混ぜたぶどう酒を飲ませようとしましたが、イエスは飲もうとしません。これから襲ってくる苦痛から逃げる気持ちはないのです。

十字架上のイエス

 イエスは両腕を広げた状態で手のひらを横木に大きなくぎで打たれ、足を重ね合わせ大きなくぎでその甲を貫いて縦杭に固定されました。兵士らはそれを押し立て、十字架の穴にどすんと落としました。すぐには死なない十字架刑ほど残酷な刑罰はほかにありません。

 頭上に張り付けられた罪状書きには「ユダヤ人の王」とあります。ユダヤの王と名乗ったことが死罪に当たるというのです。2人の犯罪者はイエスの右と左に十字架に架けられました。

 イエスの足元では兵士がイエスの衣をくじ引きで分け合っています。

 十字架上のイエスがつぶやきます。「父よ、彼らをお許しください。彼らは何をしているのか、分からないのです」。自らを十字架に架けた者のための弁護の言葉でした。

 イエスを十字架に追いやった律法学者や長老たち、それに通りがかった者たちまで、口を極めて苦しむイエスをののしります。

 「神殿を打ち壊して3日で建て直すと言ったな。もしまことに救い主なら、十字架から降りてきて自分を救え。そうしたら、お前を信じてやろう」

 イエスと同時に十字架につけられた左の強盗も怨みがましくののしりました。「お前はキリストなんだろ、自分を救っておれも救ってみろ」。

 右の強盗はそれを遮って、「おれたちは自分のやったことの報いを受けているのだから、こうなっても当然だ。しかし、この方は何も悪いことをしてはいない」。

 「イエスよ、あなたが王として再び来られる時、私を思い出してください」

 ――やっと真実の声を聞いた――イエスの心はわずかに和みます。

 「言っておこう。あなたは私と楽園に行く」

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 次回は、「この人は神の子だった」をお届けします。