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人殺しのバラバを許せ

(光言社『FAX-NEWS』通巻868号[2004年1月20日号]「四大聖人物語」より)

 『FAX-NEWS』で連載した「四大聖人物語」を毎週月曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部が加筆・修正)

▲山上の垂訓(ウィキペディアより)

 金曜日の朝早く、イエスは縛られたまま、ローマから派遣されたピラト総督の官邸に連れていかれました。大祭司カヤパらによってイエスを死刑にすることは決まっています。しかしローマの統治下にあるユダヤでは、死刑執行のためには総督の承認が必要だったのです。

 ピラトは、カヤパと同じことをイエスに尋ねます。

 「あなたはユダヤ人の王であるか」

 「その通りである」

 祭司長たちはここぞとばかりに、イエスについて、あることないことを並べてみせました。

 「あなたに不利な証言をしているのに、何も言うことはないのか」

 ピラトが不思議に思うほど、イエスは黙ったままです。

 ピラトは群集に向かって聞きます。

 「イエスには死に当たる罪を何も見出せない。過ぎ越しの祭には罪人を一人許すことになっている。イエスか人殺しのバラバか」

 群集は答えます。

 「バラバを許せ」

 背後で、祭司長たちがバラバの方を許せと言うように扇動していたのです。

 ピラトが聞き返します。

 「イエスをどうせよというのか」

 群集は声を合わせ、「十字架につけよ」。

 「イエスがどんな悪事をしたというのか」。ピラトはイエスを許してやりたかったのです。

 群集は猛り狂ったように、「十字架だ」。理由などどうでもいいというのです。

 ピラトは恐れました。

 「手のつけようがない。へたをすれば暴動になる」

 ピラトはことさらに群集の前で手を洗ってみせ、「この人の血について、私には責任はない。おまえたちが自分で始末するがよい」。

 「その血の責任は、われわれとわれわれの子孫がとる」

 ユダヤ人たちは愚かにも、言ってはならぬことを言ってしまいました。

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 次回は、「ゴルゴタの丘」をお届けします。