2022.07.26 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
ロシアのウクライナ侵攻後、初の4者合意
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、7月18日から24日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
プーチン大統領、イラン訪問(19日)。米上院、安倍晋三元首相追悼の決議を採択(21日)。ウクライナの穀物などの輸出に関する4者(ロシア、ウクライナ、トルコ、国連)合意成立(22日)。合意直後、ロシア軍がオデーサ港を攻撃(23日)、などです。
ロシア、ウクライナ、トルコ、国連の4者合意が、7月22日、トルコのイスタンブールでなされました。
合意の内容は、ロシアのウクライナ侵攻によって滞留しているウクライナ産の小麦などの穀物輸出再開を実現しようというものです。
輸出港であるオデーサなどは、ロシアが黒海を封鎖しています。
合意は、黒海沿岸の3港から、穀物などを運ぶ船舶の安全な航行を可能にする「回廊」設置を目的としています。
航路の安全を維持する「調整センター」は、イスタンブールに設置します。トルコとロシアが主導して取りまとめた案でした。
同センターによる積み荷の検査は、ウクライナへの武器輸送を警戒するロシアが同意を求めていたものです。
そして、ウクライナの艦艇が安全な航路の確保を担うとしています。
ウクライナ側はこれまで、安全を確保するためには、ロシア以外の有志国の艦艇による護送が必要だと主張していましたが、結局、自国が担うことになりました。
一方、ロシアが主張したウクライナによる対象港付近の機雷撤去は実施しないことを確認しています。
ロシアにとってこの合意は、自国産の穀物や肥料の輸出促進という見返りを得たことになり、さらに米欧は、穀物と肥料に関する代金決済や船舶保険を対露制裁の対象外にする方針を明らかにしました。
合意の有効期間は120日間で、更新は可能です。
ロシアのウクライナ侵攻が2月から続く中、双方が交渉で合意を結んだのは初めてです。しかし、ロシアとウクライナの代表は同席を嫌い、合意文書に別々に署名しています。このことは相互不信の根深さを示しており、合意がどこまで守られるのかの懸念はありました。
その懸念を裏付ける出来事が翌日起きてしまいました。
ウクライナ軍は23日、オデーサ港がロシア軍のミサイル攻撃を受けたと発表したのです。
合意が履行されれば、2000万トン超の在庫放出が可能になることへの期待から、小麦価格は22日、侵攻前の水準まで下落しました。
米、シカゴ商品取引所の小麦先物は、日本時間22日夜の取引で1ブッシェル8ドルを下回ったのです。
世界食糧計画(WFP)は、ウクライナ侵攻が続けば世界中で新たに4,700万人が飢餓に陥ると推計しており、デイビッド・ビーズリー事務局長は22日、「食料と肥料が何百万人もの人に行き渡る。この決定は世界にとって有益だ。今日から本格的な作業が始まる。一国の猶予も許されない」とツイッターに投稿していました。
合意が破棄されたわけではありません。