2022.07.19 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
バイデン大統領の中東歴訪~外交方針の転換
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、7月11日から17日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
スリランカ大統領、国外脱出か(7月13日)。バイデン大統領の中東歴訪(13~16日)。新疆(シンチャン)前トップ政治局員、退任判明(14日)。ロシアで「戦時経済体制法」成立(14日)。韓国新駐日大使着任、関係改善へ意欲(16日)、などです。
バイデン大統領は7月13~16日、就任後初の中東歴訪を行いました。
訪問先はイスラエル、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区、サウジアラビアです。それぞれ重要な訪問でしたが、今回はサウジアラビアとの関係に焦点を当てます。
今回のバイデン氏の中東訪問の狙いは、ロシア包囲網の強化にありました。そのためにほぼ唯一原油増産能力を持つサウジアラビアの協力を引き出したいとの思惑があったのです。
バイデン政権はこれまで、「戦略的ライバル」である中国との競争に注力するため「脱・中東」を図ってきました。
しかしロシアのウクライナ侵攻の影響による原油高などの現実に直面し、中東への「再関与」を打ち出すことになったのです。
複雑な事情もあります。
民主党政権であるが故に6年前の悪夢が米政府関係者によぎるのです。
2016年にオバマ大統領が訪問した時、サウジアラビアの首都リヤドの空港に降り立ったオバマ氏を迎えたのは地元知事と一握りの関係者でした。
サルマン国王、現皇太子のムハンマド王子も姿を見せなかったのです。オバマ政権がサウジアラビアと対立するイランへの制裁を解除したからでした。
サウジアラビアと米国が蜜月と呼ばれたのは、トランプ前大統領の時代でした。イラン核合意を離脱し、制裁を再開したからです。
ところが、人権問題に厳しい目を向けるバイデン氏には強い不信感を抱いているのです。
一つの出来事が拍車をかけました。2018年に起きたサウジアラビア政府批判の記者(ジャマル・カショギ氏)殺害事件に皇太子が関与した(サウジアラビア側は否定)ことを念頭に、大統領選挙戦で候補時代のバイデン氏はサウジアラビアを「パリア(のけもの)として扱う」と発言していたのです。
今回の訪問でバイデン氏と皇太子と関係が修復されるためには、米国はサウジアラビアの希望をある程度聞き入れる必要があるでしょう。
米議会が阻止し続けているサウジアラビアへの武器供与の拡大、イランの核開発の脅威に共同で対抗するための合意などです。
バイデン氏は板挟みです。米民主党はジャーナリストで長年サウジアラビア政府を批判してきたジャマル・カショギ氏の殺害事件など人権問題を深刻に捉えているからです。
民主党に配慮してバイデン氏は、あくまで地域機構の首脳会議の席で皇太子と会うと述べ、「皇太子に会いに行くのではない。国際会合に出る。そこに彼が参加する」というわけです。
7月15日、サウジアラビアの西部ジッダでムハンマド・ビン・サルマン皇太子とバイデン氏は会いました。
二人が会った時、拳でタッチしたことに対して米国内では批判の声が上がっています。
会談後の共同声明によれば、「両国は世界のエネルギー市場について定期的に協議することで合意」しました。
しかし増産の有無や規模には触れられていません。サウジアラビアが石油増産に踏み出すかはいまだ不透明です。