世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

ペロシ米国下院議長のアジア訪問と中国の対応

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、725日から31日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 民主派ら4人死刑執行、ミャンマー(25日)。韓国外相、徴用工解決へ「努力」(27日)。米中首脳、電話協議(28日)。米ペロシ下院議長、アジア訪問に出発(29日)、などです。

 米中電話首脳協議が728日に行われました。
 バイデン政権発足から5回目となります。2時間20分に及ぶ協議は、台湾、対露問題を中心に話し合われましたが、結果として両国の溝が改めて浮き彫りになりました。

 今回は米国側からの提案でした。
 米国は6月以降、対中緊張緩和に動いていました。背景にあるのは、バイデン政権の支持率が低迷し、11月の中間選挙では与党・民主党の苦戦が予測されるからです。

 物価高対策が急務となっており、米中関係を安定させたいとの意向があったのです。
 しかし緊張緩和の流れは一転し、米国が検討してきた対中関税引き下げ問題の議論も深まりませんでした。

 原因の一つは、ナンシー・ペロシ下院議長が近く台湾を訪問する可能性があることが明らかになったからです。
 ペロシ氏は29日に米国を出発し、日本、韓国、マレーシア、シンガポールを訪問する予定で、台湾は今のところ仮の訪問先としています。

 今回の訪台は、政権による判断ではないとしていますが、中国側は猛反発。「米側が独断専行するなら、中国軍は絶対に座視しない。必ずや強力な措置を講じる」などと威嚇しました。

 7月中旬以降、台湾の防空識別圏(ADIZ)に連日のように中国軍機を進入させるなど、軍事的な威圧行動を繰り返しています。

 ペロシ氏の訪台が仮に実現すれば、1997年のニュート・ギングリッチ下院議長(当時)以来となります。

 ペロシ氏の訪台について、ジャンピエール大統領報道官は、議員の行動に大統領は干渉できないとして、「ペロシ氏の判断次第」と述べるにとどめています。
 ペロシ氏はこれまで、中国の新疆(シンチャン)ウイグル自治区の人権侵害や香港での民主派弾圧を厳しく非難してきました。訪台が実現すれば、その影響は大きなものになります。

 協議に応じた中国側の狙いは、今秋の5年に一度の党大会を安定的に開催するための対応にあると見ることができます。
 中国は今、政治的に敏感な時期に差しかかっています。
 「党大会を控えたこの時期、外交上の最大の使命は対米関係を落ち着かせること」だとの共産党関係者の発言をメディアは紹介しています。

 米協議における中国側の発言には注目すべき点もありました。
 習氏は一方で、米中の協力推進も呼びかけたのです。マクロ経済政策を強調し、サプライチェーンの安定やエネルギー・食料の安全保障といった重大な問題で意思疎通を保つべきと訴えました。そして気候変動、感染症対策など協力を模索する分野についても意見を交わしたのです。

 ペロシ氏のアジア訪問と中国の対応に注目しましょう。