2022.07.24 13:00
通いはじめる親子の心 14
積極的聞き方
本書に出合った時からが子育ての新しい出発です。もう一度皆さまにぜひ読んでいただきたい、編集部イチオシ!なコンテンツをご紹介。
「通いはじめる親子の心」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
多田 聰夫・著
第三章 子供の気持ちに「共感」する
積極的聞き方
子供が成長していくにつれて、だんだん、子供の気持ちが分からなくなっていませんか。 親は、いつまでも「子供の人生の応援団長」でありたいのですが、子供の心が分からなければなれないでしょう。
「積極的な聞き方」は、次のような三段階を経ます。
まず、相手が言った言葉を繰り返します。次に、相手の言葉を、別の言葉に言い換えます。そして、次の段階では、相手の心を酌み取って、共感的に理解するようにします。
「積極的聞き方」も「共感的聞き方」と同じように、子供に親の愛情が伝わる聞き方です。「共感的聞き方」を何度も繰り返し実践することで、「積極的聞き方」が自然にできるようになります。
「積極的な聞き方」は、子供が問題を抱えているとき、例えば、子供が、落胆、焦り、苦痛などの感情を表現するときに有効です。
「積極的な聞き方」は、子供に心を開かせ、自身の欲求や本当の感情を打ち明けさせることができます。これができれば、次の段階で、親も受け入れられるような、子供の欲求を満たす方法を見つけやすくなるのです。人の話を聞くことは、愛情を伝える、感じさせる最も有効な方法です。
以下の会話は、「家族の心が育つ教育」などをテーマに活動をされている親業シニアインストラクターの江畑春治先生が紹介している、親と子の会話です。子供の発言に対する親の応答が、それぞれ三つ挙げられています。子供の感情を最も適切につかんでいると思われるものはどれか、考えながら読んでみてください。
<中学一年生と母親の会話>
子供:
お母さん、僕、テニス部を辞めて柔道部に入りたいんだけど、駄目かな。
母親:
①あら、テニス部より柔道部がいいのね。
②なに言ってるの、まだ一カ月にしかならないじゃない。
③何か嫌なことでもあったの?
これは①が良いでしょう。②は母親が言いたいことを言っているだけで、自分の主張を述べています。③は、子供は何か嫌なことがあったと言っていないのに、言っているので、「詮索」していることになります。これでは、子供は聞いてもらっているという気持ちになりません。子供に共感しているのは①です。
子供:
そうなんだ。柔道部は強くなると段がもらえるしさ、男らしくていいと思うんだ。
母親:
①そう、柔道部のほうがいいように思えるのね。
②誰か仲良しが、柔道部にいるわけ?
③男らしさって何かしらね。
これも①が良いでしょう。子供の発言には柔道部に仲良しがいるとは言っていませんし、③は子供の「テニス部を辞めようか」という今の気持ちから「男らしさは何か」と、別の方向に向かってしまいそうです。母親が知りたい方向へ誘導しようとすると、子供は聞いてもらっていると実感できないのです。
子供:
そう、テニス部なんかよりずっと面白そうだよ。テニス部は嫌だよ。
母親:
①でも、テニス部へ入るときだって、面白そうだって言ってたじゃないの。
②またすぐ気が変わって、他の部に移りたいなんて言うんじゃないの。
③そう、テニス部はもう本当に辞めたいと思っているようね。
ちょっと子供の本音が出てきました。もうどれが適切か、分かりますね。③です。でも、普段、皆さんは①や②のように言っているのではないでしょうか。「落ち着きがない」とか「忍耐力がない」とか、一言、言ってしまいそうです。
子供:
やめたい気分だよ。一年生は球拾いばっかりなんだ。まだ一度も打ったことがないんだよ。
母親:
①一年生が球拾いをするのは当然じゃないの。
②球拾いばかりで、嫌になってしまったのね。
③球拾いくらいできないで、テニスができるわけないわよね。
②が子供に共感した聞き方です。
子供:
そうなんだよ。球拾いにはもううんざりなんだ。それに上級生がものすごく威張ってるんだ。
母親:
①運動部の上級生なんて、どこでも威張っているんじゃない。
②そういうことに耐えてこそ、上達すると思うけど。
③球拾いの上に、上級生に威張られて、嫌になってしまったわけね。
①②は母親の意見が述べられています。でも、子供はまだ母親に話を聞いてもらいたいのであって、母親の意見を聞きたいのではないのです。③が最も子供の気持ちを理解した積極的な聞き方です。
子供:
そうだよ。しかも女子の上級生のほうが威張っていて、時々、ラケットで頭をぶつんだよ。
母親:
①まあ、いやだ。女子のくせにひどいことするわね。
②女子の先輩もそんなことするの。新入生も大変なのね。
③誰がそんなことするの? 先生に言ってやめるように注意していただいたら。
これは②でしょう。「新入生も大変なのね」と、子供の気持ちを分かってくれています。③は言ってはいけない言葉です。子供は、先生に何とかしてほしいとは言っていません。
子供:
そう。でも、どの人もそういうわけじゃないんだよ。とてもいい人もいるんだから。
母親:
①とてもいい人もいるのね。
②そりゃ、そうでしょう。ラケットでぶつような人ばかりじゃたまらないわ。
③ああ、それを聞いて安心したわ。
子供がずいぶん変わってきました。積極的な聞き方で、親が自分の気持ちを分かってくれていると感じるので、子供は気持ちを変化させてきているのです。③が良いと思う方もいるでしょうが、ここでまだ安心してはいけません。子供が自分で解決の方向に向かい始めているのです。
子供:
そうさ。だから一年生は先輩がちゃんと練習できるように、球拾いをして協力しているのさ。
母親:
①先輩は立てなくちゃね。
②先輩の練習に協力しているわけね。
③あなたも二年生になれば、一年生に球拾いさせるわけでしょ、順番よ。
③のような言い方をすると、子供は「それは、そうだけど……」と言って、話をしなくなるでしょう。②の言い方をすると、子供は母親が共感してくれていると感じ、さらに前進していけるでしょう。
子供:
そうだよ、球拾いする人がいなければ、上級生が困るだろ。みんなそうして上級生になっていくんだよ。
母親:
①上級生も一年生の時は球拾いしたんだと気が付いたようね。
②球拾いだって大切な仕事よ、頑張らなくちゃ。
③いい上級生とだけ付き合えば、大丈夫なんじゃない。
①が良いでしょう。子供が大事なことに気が付いたことを親が共感して認めてあげています。②のように「頑張らなくちゃ」と言うと、背中をたたくことになります。子供がもう少し強く決意できたら、後押しとして言ってもよいでしょうが、この段階ではまだはっきりと決意していません。
子供:
そうだよ。明日から一生懸命球拾いするんだ。時々なら打たせてくれるし、素振りの練習もつけてくれるんだよ。
母親:
①そう、テニス部を続けるつもりになったようね。
②なんだ、球拾いばっかりじゃないじゃない。
③それじゃ辞めるなんて言わなければいいでしょ。心配しちゃったわ。
話が変わってきました。子供がテニス部を続ける決意をしました。この場合は①が良いでしょう。これが積極的な聞き方です。③のように言うと、子供は相談しなくなってしまいます。
子供:
うん。柔道部のことは、また高校に入った時にでも考えるよ。
母親:
そう。じゃあ、頑張ってね。
この母親は、自分から解答を示してはいません。また、教えることもしていません。子供自身が、問題の解決方法を見つけ出しています。子供には、いろいろな能力が備わっているのです。もちろん、問題を解決する能力もあるのです。それがうまく引き出せていないだけなのです。
親が解答を示し、指示して、「さあ、分かったでしょ。頑張りなさい」。それで問題が解決できたとしても、これでは、子供は何も成長できていないのです。
問題解決の解答を子供に見つけさせる、自分でその方法を実践する決意をさせる。そうすることによって、子供は成長していけるのです。子供の成長の可能性を信じて、忍耐強く待ち、引き出すことに努めましょう。
親の感想を紹介します。
親の感想:「子供の話を最後までしっかりと聞くことがなく、途中で遮ったり、きつい言葉で返したりしていたことをとても恥ずかしく思いました。子供の気持ちを分かってあげようとせず、自分勝手でした。心から愛情を持って接していくように努力します」
親の感想:「今までの自分を省みると、子供と向き合っていただろうかと反省させられます。授受作用をしていなかったこと、特に子供の話を聞いていなかったことに気が付きました。自分の意見を言うばかりでした。共感的な聞き方、積極的な聞き方を、努力して実践していきたいと思います」
---
次回は、「私メッセージ」をお届けします。