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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米韓首脳会談、韓国が外交方針転換

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、516日から22日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 韓国、福島第一原発処理水に反対示さず(18日)。ロシア国防省がマリウポリ完全制圧を宣言(20日)。米韓首脳会談の開催(21日)。豪総選挙で中道左派の野党・労働党の勝利確実に(21日)、などです。

 521日、米韓首脳会談がソウルの大統領府で開催され、韓国の外交方針が大きく転換しました。
 背景にはロシアのウクライナ軍事侵攻とそれを支える中国、全面擁護する北朝鮮の存在があります。安全保障環境が大きく変化する中での大きな転換は素晴らしいものです。

 バイデン大統領訪韓の狙いは、対中包囲網に韓国を組み込むことにあり、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の狙いは、対北朝鮮抑止に米国がさらに踏み込むことでした。

 尹氏は会談後の会見で、「『安保は決して妥協できない』という共同の認識のもと、強力な対北抑止力が何より重要だと確認した」と表明。
 バイデン氏は中国を念頭に、日米韓が経済、軍事面で「緊密な関係を維持することが大変重要だ」と述べました。

 繰り返しになりますが、韓国の外交方針転換が明確になりました。

 これまでの方針は「安米経中」路線といわれていました。
 その意味は、「安全保障は米国、経済は中国」というものです。中国への直接批判を避けながらも、安全保障と経済は分けられなくなったことを念頭に、米国中心にかじを切ることを決断したのです。

 尹氏は首脳会談後の共同記者会見で、米主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」への参加を正式に表明しました。
 IPEFは対中国包囲網ともいわれる枠組みです。安保を米国に依存する限りは、IPEFの発足メンバーに入って発言権を確保する方が国益にかなうと判断したのです。

 一方、尹氏がバイデン氏の意向を最大限くみ取ったのは、米国に北朝鮮への関与を強めてほしいためです。
 北朝鮮は変わりました。金正恩(キム・ジョンウン)総書記は425日の演説で、ついに核兵器による先制攻撃に言及したのです。

 尹氏が今回、最も重視したのは米国による安全保障上の「拡大抑止(核の傘)」の提供に念を押すことでした。そして、米国が提供する拡大抑止について話し合う「拡大抑止戦略協議グループ(EDSCG)」の高官級会議再開で合意したのです。

 北朝鮮への圧力を強める構えであり、尹氏は「核攻撃に備えた合同訓練もさまざまな方式で行う必要がある」とし、「戦闘機やミサイルなど多様な戦略資産(兵器)の展開も議論した」と述べています。
 米軍の戦略爆撃機や原子力潜水艦が朝鮮半島周辺で展開する事態も視野に入れていることを示したものでした。

 首脳会談後の「共同声明」のポイントは以下のとおりです。

① 朝鮮半島の完全な非核化に向け、さらに連携を強化する(米韓合同軍事演習の再拡大方針)
② 半導体などのグローバル供給網の強化に向けて協力する
③ ロシアのウクライナ侵攻を非難する
④「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を通じて緊密に協力する
⑤ 台湾海峡の平和と安定の重要性を表明
⑥ 日米韓3カ国の協力の重要性を表明

 今後、南北間の緊張が高まる可能性があります。