2022.05.31 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
日米会談、対中で踏み込んだ両首脳
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、5月23日から29日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
日米首脳会談、インド太平洋経済枠組み(IPEF)発足、クアッド(日米豪印4カ国戦略対話)サミットの開催(23日)。豪、アルバニージー政権始動(23日)。国連安保理、北朝鮮制裁決議で露中が拒否権行使(26日)、などです。
日米首脳会談が5月23日、迎賓館で行われました。両首脳の正式な対面会談は初めてです。
日米同盟の抑止力と対処力を早急に強化する方針で一致し、岸田首相は、防衛力の抜本的な強化のため、防衛費の「相当な増額」決意と「反撃能力」の検討を表明しました。
政府の予算編成前に米国に防衛費の増額を伝達するのは極めて異例のことです。
バイデン大統領は「核の傘」を含む「拡大抑止」の提供を改めて保証しました。
背景には台湾危機と北朝鮮による核・ミサイルの動向があります。明らかなことは、両首脳がかつてないほどの深刻な危機意識を共有しているということです。
経済戦略においては、半導体、希少金属などの供給網強化で一致し、同時に「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を発足させました。
IPEFは、米国が復帰困難な環太平洋パートナーシップ(TPP)の代替役として打ち出した枠組みです。
米国内の世論に配慮し、関税引き下げによる市場開放には踏み込んでいません。どれほど実効性のある経済連携になるかは現時点では見通せないところがあります。
バイデン氏が構想を最初に打ち出したのは昨年10月の東アジア首脳会議でのことであり、その1カ月前に、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に加わる中国が、TPPにも加盟申請するとして、危機感が高まったことが背景にあります。
参加国は13カ国。米国、日本、インド、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナム、ブルネイ、韓国、インドネシア、フィリピン、タイです。
韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は23日、IPEFの発足会合にオンラインで参加しました。
尹大統領は、「グローバルな国家間の連帯と協力がいつにも増して必要だ」と述べ、「韓国も固い連帯に基づき責任を果たす」と強調しています。発足メンバーの一国となりました。
首脳会談で注目されたのは、会談後の記者会見での出来事でした。
バイデン氏は会見で、記者から「大統領はウクライナ紛争に軍事的に関わりたくなかった。いざというときには台湾を守るため軍事的に関与する意思があるか」と質問されました。
即座に「イエス。それがわれわれの約束、責任だ」と答えたのです。軍事的措置をもって防衛することを明言しました。
米国は従来の「戦略的曖昧さ」と呼ばれる政策を変更したのかとの議論が世界中のメディアに取り上げられました。
米国の台湾関係法には、台湾を「防衛」するとは記されていません。適切に「対抗する」とあるのです。
しかしバイデン氏の台湾を防衛するとの発言は就任以来3度目となります。
この発言を単なる「失言」とはみなしにくいのです。日本政府にも「確信的で、台湾重視の表れだ」との受け止めが広がっています。
今回の会談は、日米同盟の強さと、インド太平洋地域の平和と安定を維持する責任を米国が示すことが最大の狙いでした。
そして日本は、防衛費の「相当な増額」と「反撃能力」の検討を表明したのです。
日本側の課題は、この国際的「約束」を本当にやり遂げられるかどうかです。ロシアのウクライナ侵攻は日米関係も変えました。