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「性解放理論」を超えて(30)
マルクーゼの思想⑦~ギリシア神話への傾倒

 人類は今、神とサタンの総力戦の中に生きています。
 「統一思想」すなわち「神主義」「頭翼思想」によって生きるのか、神の言(ことば)を否定する思想を選択するのか…。
 台頭する性解放理論を克服し、神の創造理想と真の家庭理想実現のための思想的覚醒を促す「『性解放理論』を超えて」を毎週月曜日(予定)にお届けします。

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大谷明史・著

(光言社・刊『「性解放理論」を超えて』より)

三 フロイト左派を超えて
(二)マルクーゼ

(8)ギリシア神話への傾倒
 マルクーゼによれば、ギリシア神話のオルフェウスとナルシスというイメージは、エロスとタナトスを和解させ、エロスを解放するものであると言います。

 彼らは、支配もコントロールも受けずに、解放されている世界の体験を思い出させる。そのような世界は、自由の世界であり、そこでは、抑圧されて硬化した、人間と自然のさまざまなかたちにしばられていたエロスが解放されて、その力を発揮するのである。エロスの力は、破壊的ではなく、平和であり、恐怖をおこさせるものではなく、美をよびおこす。その力がはたらく秩序を明らかにするには、ただいくつかの組みあわされたイメージを数えあげるだけで十分であろう。快楽の償い、時間の停止、死の吸収、沈黙、眠り、夜、楽園、つまり、ニルヴァーナ原則は、死としてでなく、生としてある(※59)。

 マルクーゼはさらに、オルフェウスとナルシスのエロスは、人間と自然をエロス的に結合させ、自然の世界を解放させると言います。

●人間と自然はエロス的に結合される
 オルフェウス・ナルシス的なイメージの代表している内容は、秩序が美であり、仕事が遊びであるような美的な態度で、人間と自然をエロス的に和解(結合)することであると、われわれは考えた(※60)。

●自然界はエロスによって解放される
 オルフェウスの歌は、動物の世界を平和にし、ライオンを仔羊や人間と仲良くさせる。自然の世界は、人間の世界のように、圧迫と残虐と苦痛の世界であり、人間の世界と同様、解放されるのを待っている。この解放がエロスの仕事なのである。オルフェウスの歌は、石のように硬ばった動植物の心をうち破り、森や岩を感動させる。──そうしてそれらを喜悦へと誘う(※61)。

 オルフェウスとナルシスの世界は、完全なエロスを求めるために、正常なエロス[社会的に認められている性]を斥(しりぞ)け、秩序を否定します。

 この古典的な伝説で、オルフェウスの名は、同性愛の始まりと結びつけられている。彼は、……より完全なエロスを求めるために、正常なエロスを斥ける。ナルシスのように、彼も生殖的な性欲の抑圧的な秩序に抗議する。オルフェウスとナルシスのエロスは、けっきょく、この秩序の否定、つまり、偉大なる拒否である(※62)。

 マルクーゼは『エロス的文明』の中で、「肉体的な愛にはじまって、ひとりの対象からつぎの対象へと、エロスの充足は上昇をつづけ、……高次の文化への道は、少年の真の愛情を通して、開けている。……エロスの文化をつくる力は、非抑圧的な昇華である(※63)」と言います。つまり、肉体的な愛、移りゆく愛、同性愛を通じながら、エロスが上昇し、非抑圧的なエロス文明が実現されると言うのです。

 オルフェウスとナルシスの神話は、完全なるエロスの理想として描かれていますが、それは神の言(ことば)〈戒め、ロゴス〉に反抗して堕落した天使たちが、人間を誘おうとして、自分たちの世界を美化してつくり上げたものにほかなりません。マルクーゼの思想は、そのような神話を源流としていたのです。

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59 ハーバート・マルクーゼ『エロス的文明』(149
60 同上(160
61 同上(151
62 同上(156
63 同上(191

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 次回は、「階級闘争から文化闘争へ」をお届けします。


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