2022.04.18 22:00
「性解放理論」を超えて(29)
マルクーゼの思想⑥~革命的反抗、ヒッピー文化の奨励
人類は今、神とサタンの総力戦の中に生きています。
「統一思想」すなわち「神主義」「頭翼思想」によって生きるのか、神の言(ことば)を否定する思想を選択するのか…。
台頭する性解放理論を克服し、神の創造理想と真の家庭理想実現のための思想的覚醒を促す「『性解放理論』を超えて」を毎週月曜日(予定)にお届けします。
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大谷明史・著
三 フロイト左派を超えて
(二)マルクーゼ
(7)革命的反抗、ヒッピー文化の奨励
マルクーゼは、性の抑圧機関である資本主義を打倒して、性の解放されたエロス文明、美の王国の樹立を目指しました。その革命を担う勢力は誰か。マルクーゼは、「アメリカの学生運動、アメリカの大都市のスラム街に住む黒人たち、中国の文化大革命、ベトナムの民族解放戦線、それにキューバ(※54)」に期待を寄せました。中でも彼は、反抗的な学生たちに特別な期待を寄せました。そしてマルクーゼは、学生たちは“将来の解放者のエリート”であり、受動的な大多数の人びとを解放する能動的な少数者であると、檄(げき)を飛ばしたのです。
マルクーゼは「将来の文化のエリート」として、反抗的な学生たち、スラム街の黒人たち、中国の文化大革命、ベトナム解放戦線等に期待をかけました。しかし、収容所列島であった共産主義社会の実態、文化大革命の大惨事、ベトナムのボートピープル等が示すように、マルクーゼが期待をかけた革命はみな悲劇に終わったのです。
共産主義が、プロレタリアートの天国を目指しながらプロレタリアートの代表と称する共産党の独裁に終わったように、マルクーゼの主張するエロスの理想社会も、結局、彼のような悪霊的な人物が支配する独裁社会に至らざるを得ないのです。それに対して「統一思想」の目指す世界は、全ての人類を子女のように愛する、真(まこと)の父母の愛による人類一家族世界、すなわち「神のもとでの一家族」の世界です。
(8)キリスト教道徳に対する批判
マルクーゼによれば、「キリスト教的道徳の勝利とともに、生の本能は倒錯し、圧迫された。疚(やま)しい心は、“神にたいする罪”と結びついた[のであり]、人間の本能のなかには、“『支配者』であり、『父』であり、最初の祖先、世界の初めである者[神]にたいする敵意、反逆、暴動”が植えつけられた(※55)」のです。そして、その反逆を鎮圧するために、「[キリスト教道徳による]抑圧と剥奪は、このようにして正当化され、肯定された。それらは、人間の存在を決定する、横暴で攻撃的な力になっていった(※56)」と言うのです。
そしてキリスト教道徳を覆し、エロス文明を樹立するために、マルクーゼは、ハインリヒ・フォン・クライスト(Heinrich von Kleist)の言葉、「われわれは、罪のない状態にたちもどるためには、もう一度知恵の木の実を食べなければならない」を引用しながら、「“原罪”はふたたびおかされねばならない」と主張したのです(※57)。
かくしてマルクーゼは、「真の文明は……ガスのなかにも、水蒸気のなかにも、回転卓子[テーブル]のなかにもない。それは原罪の傷痕がうすくなることにある(※58)」と、キリスト教の言う原罪の記憶を、人類の頭から根絶しようとしたのです。
原罪を再び犯せとか、もう一度知恵の木の実を食べよと言うのは、堕落した天使長である悪魔(サタン)のささやき以外のなにものでもありません。
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※54 アラスデア・マッキンタイアー『マルクーゼ』(133)
※55 ハーバート・マルクーゼ『エロス的文明』(106)
※56 同上(106-7)
※57 同上(108)
※58 同上(139)
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次回は、「マルクーゼの思想⑦~ギリシア神話への傾倒」をお届けします。