2022.04.19 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
G20「崩壊」の危機に直面か
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、4月11日から17日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
ロシア軍が有毒物質使用か~市民ら呼吸不全(11日)。米オクラホマ州で中絶「重罪」に(12日)。常任理事国の拒否権に「説明責任」、米国などが決議案を用意(12日)。ロシア財務相、G20会合にオンラインで参加へ(14日)。ロシア国防省、黒海艦隊旗艦が沈没と発表(14日)。北朝鮮、金日成氏生誕110年を祝う(15日)。北朝鮮 2発の「戦術核用ミサイル」発射実験か(16日)、などです。
G20(“Group of Twenty”の略で20カ国・地域で構成されている)が分裂の危機に直面しています。
1999年に、アジア通貨危機の反省から各国の財務相・中央銀行総裁による会議を開いたのが始まりで、首脳会議はリーマン・ショック(米国発の世界金融危機)後の2008年に初めて開かれました。
G20は、参加国全体のGDP(国内総生産)が世界全体の大半を占め、リーマン・ショック後に世界経済の重要課題を議論する最上位の会合として位置付けられました。
政治体制の違いを乗り越え、共通の利益を探るための枠組みとして大きな役割を果たしてきたのです。
ところが、4月20日からワシントンでG20財務相・中央銀行総裁会議が開催される予定になっているのですが、現状は分断の危機に直面していると言ってもいいでしょう。
原因は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻です。その影響は中長期的で深刻な危機を世界にもたらすことになるでしょう。
先進諸国は、同様の挑戦を絶対に許さないようにするため、何らかの新たな仕組みをつくる必要があると考えています。
今、ロシアへの対応を巡って、先進国と新興国の間で立場の違いが浮き彫りになってきているのです。
4月14日、ロシア財務相がオンラインで会合に参加することを明らかにしました。
G20にはメンバー国の参加を拒否するルールはありません。
議長国インドネシアはすでにロシアに対して招待状を出しており、ロシアから参加の意向が伝えられたのです。
最も厳しく対応しているのが米国です。バイデン大統領は3月24日、ブリュッセルのNATO(北大西洋条約機構)本部で記者会見を行い、ウクライナに侵攻したロシアをG20の枠組みから排除すべきだとの考えを示しました。
米国のイエレン財務長官は、「ロシアが参加する限り、われわれは数々の会合に出席しない」と明言しました。
日本は現在、参加の意向を明らかにしています。しかし鈴木俊一財務相は、「3月のG7首脳声明で、国際機関や多国間フォーラムはもはやこれまでどおりロシアとの間では活動を行うべきではないとされている」と述べ、経済制裁で連携するG7の姿勢を強調しました。さらに、「G7だけでなく、国際社会全体として、ロシアの暴挙を抑える方向に努力したい」と意気込みを語ったのです。
一方、中国の王毅外相は、「誰にもG20を分裂させる権利はない」とけん制。ブラジルのフランサ外相もロシアの排除に「明確に反対」の立場を表明しています。
4月7日に開催された国連総会の緊急特別会合では、国連人権理事会でのロシアの理事国資格停止を巡り、G7はそろって賛成しましたが、2000年代に著しい経済成長を実現したBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)を含む8カ国が反対や棄権に回りました。ロシアの締め出しは容易ではないことが分かります。
今後の世界はどのようになるでしょうか。
「ブロック化」は避けられないのではないかと思います。
米国のイエレン財務長官は13日の講演で、金融面の国際協調の「再構築」の必要性を訴えました。
その中で、ドルを基軸とする第2次世界大戦後の金融秩序を決めたブレトンウッズ会議に言及し、米財務省が具体的な構想を練り始めたのは会議の3年前、1941年だったと述べたのです。
この発言の意図は、G20に代わる国際協調の枠組みを、ウクライナ危機とそれに伴う混乱が収束する前に模索する考えを示したものと受け止められています。
G20崩壊の危機に直面しているのです。これはロシアの暴挙がもたらしたのです。