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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

北朝鮮、金与正氏「核使用」発言から見えてくること

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、44日から10日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 北朝鮮、金与正(キム・ヨジョン)氏「核使用」談話を公表(4日)。米韓が同盟格上げで一致(4日)。チェコがウクライナに戦車提供を公表(5日)。米下院議長コロナ陽性~台湾、アジア訪問延期(7日)。黒人女性初の米最高裁判事誕生へ(7日)。英首相、事前予告なくキーウ(キエフ)を訪問(9日)、などです。

 北朝鮮の金与正党副部長が4日、談話を公表しました。
 韓国側が「軍事的対決」に踏み切った場合には、戦争初期に核兵器を使用すると明言し、韓国軍は「全滅に近い悲惨な運命を甘受しなければならない」と警告したのです。
 朝鮮中央通信が5日に報じました。

 談話は徐旭(ソ・ウク)韓国国防相が41日、「ミサイル発射の兆候が明確な場合」に先制攻撃を行うと言及したことを受けたものです。
 徐旭氏の発言は、324日の北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射が背景となっています。
 これは2018年に北朝鮮が行った、ICBM発射と核実験の停止宣言を自ら破棄したものだったのです。

 北朝鮮が地下核実験場・豊渓里(プンゲリ)辺りで動きを見せたのは3月からでした。
 故・金日成(キム・イルソン)主席生誕110周年に当たる415日にも7度目の核実験に踏み切る恐れがあります。
 2018年にトランプ米大統領(当時)との協議の一環で、3番坑道の主要道の爆破を公開しました。しかし補助道の爆破映像は現認されておらず、坑道がそれほど痛まずに残っている可能性も指摘されていました。

 今後北朝鮮は、昨年(2021年)の党大会で決定した「兵器システム開発5カ年計画」を実行に移していくのでしょう。
 これまで開発してきた戦略核兵器だけではなく、実戦用に出力を抑えた戦術核兵器の実験をすることも想定されます。

 今後の北朝鮮の核・ミサイル開発は単なる交渉材料にとどまらないでしょう。核戦争を戦い抜ける能力を構築しようとしていると思われます。
 つまり、対米交渉は重視しているでしょうが、結果として核戦力を放棄するかというと、その段階はとっくに過ぎたように見えるのです。
 すなわち、北朝鮮の戦略転換です。従来の「通米封南」、体制保証を米国から得た後に統一に向かう路線から、「通南封米」、核で米韓を脅して在韓米軍の撤退を勝ち取って統一に向かう路線への転換です。
 核保有そのものが体制保証になるというわけです。

 ロシアによるウクライナ侵攻は、北朝鮮の核政策に決定的な影響を及ぼしたといえます。
 いったん核兵器を手放した国は侵攻されるという事例を目の当たりにし、北朝鮮自身にとっても核兵器を持つ重要性が増したのです。

 韓国は核抑止強化のために動き始めました。尹錫悦(ユン・ソンニョル)次期大統領はまず、米韓同盟強化にかじを切るでしょう。
 中国には厳しい態度を取り、韓日米の緊密な連携や、日米豪印の4カ国の枠組み・クアッドへの参加論が加速する可能性もあります。
 朝鮮半島を巡る安全保障環境も、次元の異なる脅威にさらされることになるのです。