https://www.kogensha.jp/shop/detail.php?id=4080

世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国、ソロモン諸島と正式な安保協定締結を発表

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、4月18日から24日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 米高官ら南太平洋諸国を歴訪(18日)。中国外務省、ソロモン諸島との安全保障協定の正式締結を発表(19日)。韓国外相候補が慰安婦合意は公式との認識示す(20日)。ロシア代表発言時に米英加のG20財務相が会合を退席(20日)。韓国次期大統領の代表団が来日(24日)、などです。

 419日、中国政府は、南太平洋のソロモン諸島との間で基本合意していた安全保障協定を正式に締結したと発表しました。
 具体的な内容は明らかになってはいませんが、すでに3月に草案とされる文書がSNSで流出していました。

 そこには「ソロモン諸島は中国に警察や軍人の派遣を要請できる」「中国は船舶の寄港や補給ができる」など、中国の軍事的な関与を認める記載があったのです。
 今回の発表は、米高官らの南太平洋諸国歴訪にぶつけた形です。

 ソロモン諸島はオーストラリアの北東約2,000kmに位置し、米国や日本の船舶が行き来する海上交通の要衝です。
 首都ホニアラがあるガダルカナル島は、太平洋戦争の激戦地となった所であり、地理的にソロモン諸島に属するブーゲンビル島(パプアニューギニア領)は山本五十六(いそろく)連合艦隊司令官の終焉(しゅうえん)の地です。

 ソロモン諸島は2019年に台湾と断交し、中国と国交を結びました。

 ソロモン諸島は軍隊を持っていません。そのため、昨年(2021年)起きたソガバレ政権の退陣要求デモが暴徒化した時に治安維持を理由に中国当局者を受け入れるなど、対中接近が非常に目立っていたのです。

 米国や周辺国は、流出したSNS情報を踏まえ、ソロモン諸島が中国の軍事拠点になりかねない事態に危機感を強めていました。

 18日には、米ハワイ・ホノルルで、米国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官らが、日本、オーストラリア、ニュージーランドの3カ国の政府高官らと会談し、懸念を共有していました。
 キャンベル氏らが率いる米政府代表団はソロモン諸島の他、フィジーとパプアニューギニアを訪問し、各国の高官と会談する計画です。

 中国はすでに、南シナ海の軍事拠点化を進めています。さらに南太平洋地域での軍事的影響力の拡大まで許せば、米国のインド太平洋地域における覇権を揺るがしかねない事態になります。

 ソロモン諸島に近いオーストラリアはこれまで、この協定によってソロモン諸島が中国の軍事拠点になりかねないとして、繰り返し懸念を伝えてきていました。
 協定の締結が発表された19日、オーストラリアのペイン外相は「深く失望している」と声明を発表しました。

 ソロモン諸島のソガバレ首相は、国内に中国が軍事施設を造ることはないと否定する一方で、協定への批判は不当な介入だとして反発を強めています。
 20日に出した声明では「ソロモン諸島の主権的な利益を尊重するよう求める」と訴えているのです。

 インド太平洋への中国の進出をけん制するため、米豪は日本、インドを加えた「クアッド(Quad)」や英国との「オーカス(AUKUS)」など、多国間の安保協力の枠組みを強化してきました。

 今後、協定を背景に中国が艦船を定期的にソロモン諸島へ派遣し、事実上の基地として使えば、米軍や豪軍の動きが監視されやすくなってしまいます。

 日本の役割は重大であると言わなければなりません。
 1997年以降、3年ごとに「太平洋・島サミット」を開催し、南太平洋の島しょ国と友好関係を築いてきました。
 今後、米豪との連携の下、働きかけを一段と強めるべきです。

 これ以上、中国の覇権拡大を許してはならないのです。