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「性解放理論」を超えて(27)
マルクーゼの思想④~フリーセックスの奨励

 人類は今、神とサタンの総力戦の中に生きています。
 「統一思想」すなわち「神主義」「頭翼思想」によって生きるのか、神の言(ことば)を否定する思想を選択するのか…。
 台頭する性解放理論を克服し、神の創造理想と真の家庭理想実現のための思想的覚醒を促す「『性解放理論』を超えて」を毎週月曜日(予定)にお届けします。

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大谷明史・著

(光言社・刊『「性解放理論」を超えて』より)

三 フロイト左派を超えて
(二)マルクーゼ

4)フリーセックスの奨励
 マルクーゼは性欲が性器に集中する以前の多様な性欲の復活を叫びます。

 肉体は、もはや労働のためフルタイムに使われる道具ではなくなり、再性化されるだろう。リビドーのこの拡大にふくまれる退行の結果、まず、すべての性感帯が復活し、ついで、性器以前の多様な性欲が復活して、性器の優位が失われる。肉体の全部が、性的定着の対象となり、享受されるもの、快楽の手段になるだろう(※40)。

 アラスデア・マッキンタイアーが言うように、「マルクーゼは、性的リビドーをただ生殖器および一夫一婦制という通路にだけ放出させることを過剰抑圧の過程であると見た(※41)」のであり、リビドーを解放することにより、一夫一婦制の家族制度を崩壊せしめようとしたのです。

 マルクーゼは、明らかに性解放の理論家でしたが、彼は「現代アメリカ生活のめだった特徴のひとつとなった、性の氾濫の擁護者として誤解されるのを警戒」していたのであり、「現実の性の氾濫に直面させられると“それはわたしの意見の全部ではない”と言ってしりぞけてしまう(※42)」のでした。マルクーゼは正に自分の言動に責任を持たない論者であったのです。

5)西洋哲学への批判
 マルクーゼによれば、理性中心の西洋哲学は支配のロゴスに基づいているが、「そのロゴスは、理性に命令し、支配し、方向づけるロゴスであり、人間と自然はそれに服従しなければならない(※43)」のです。ところが「ヘーゲルの後、西欧哲学の主流は涸(か)れてしまっている。支配のロゴスは、その体系を建ててしまい、それにつづくものはエピローグである(※44)」と、理性中心の西洋哲学は終焉(しゅうえん)に近づいていると言います。

 マルクーゼはさらに、感性と理性の関係について、「感覚、快楽、衝動の領域に属しているものには、理性に敵対するもの、鎮圧され、束縛されるべきものの意味がふくまれている(※45)」、「理性という法廷のまえでは、美の法則は有罪とされる(※46)」と述べて、感性的なものは、理性によって鎮圧されてきたと言います。

 マルクーゼによれば、文化が救済されるには、理性中心の文明が感性の上に課してきた抑圧的なコントロールの廃棄が必要になります。マルクスは資本家を打倒し、労働者を解放しようとしましたが、マルクーゼは抑圧的な理性と戦って、感性を解放しようとしたのです。マルクーゼは言います。

 文明の病は、……感性を抑圧して、理性による専制を確立しようとしたために生じたのであると、彼[シラー]は診断した。したがって、葛藤の状態にある、これらの衝動を和解するには、理性の専制を排除し、感性の権利を回復しなければならないだろう(※47)。

 そしてマルクーゼは、抑圧的でない文化、本能の自由と理性の秩序が調和した文化、フリードリヒ・シラー(Friedrich Schiller)のいう「美の王国」(aesthetic state)を理想として掲げます。

 われわれは、神話と哲学のなかで片隅におしやられていた、抑圧的でない文化の観念をひろいあげたが、それは本能と理性の新しい関係をめざすものである。文明化された道徳は、本能の自由と秩序とを調和させることによって、逆転される。抑圧的な理性の専制から解放されて、本能は自由で永続する存在の関係にむかう、ひとつの新しい現実原則を生みだす。シラーの「美の王国」という観念、つまり抑圧的でない文化の観念は、成熟した文明のレベルで具体化される(※48)。

 マルクーゼは、「ほんとうに自由な文明では、すべての法則を、個人が自分に課するものである。“つまり自由によって自由を与えることは美の王国の普遍的な法である”(※49)」と言います。全ての法則は、「個人が自分に課する法則」であるというのですが、それは絶対的な規範を否定し、規範を自己決定するということにほかなりません。

 マルクーゼは、本能の自由と理性の秩序が調和した、非抑圧的な文化を理想として掲げながら、理性を退けて、感性を解放しようとしました。「統一思想」の観点から言えば、理性を退けるのではなくて、理性の示す規範に従いながら感性を発揮すべきです。

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40 ハーバート・マルクーゼ『エロス的文明』(182
41 アラスデア・マッキンタイアー『マルクーゼ』197167
42 ポール・ロビンソン『フロイト左派』(240
43 ハーバート・マルクーゼ『エロス的文明』(112
44 同上(105
45 同上(144
46 同上(157
47 同上(173
48 同上(179
49 同上(174

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 次回は、「マルクーゼの思想⑤~フロイトへの批判」をお届けします。


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