2022.03.27 17:00
同胞全滅の危機救ったエステル
岡野 献一
『FAXニュース』で連載した「旧約聖書人物伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
ユダヤの祭りの一つにプリム祭があります。その祭りの起源について述べた書がエステル記です。その書の主人公エステルは、自ら命の危険を冒しながら、神が立てた選民、ユダヤ民族に降りかかった全滅の危機を救うために、信仰と勇気を持って立ち上がった女性です。
従順さ故に王妃に選ばれる
ペルシャ王アハシュエロスの治世(紀元前485-465)のことです。エチオピアからインドまでの広大な地域を統治した王は、ある時、将軍、大臣、貴族を集めて大宴会を開きます。最後の日、王は王妃ワシテに宴会場に出るよう命じました。ところが彼女は王の命令に従いませんでした。本来、王妃は世の全ての女性のお手本になるべき立場だったのです。
そこで王はワシテに代わる内外共に美しい王妃を選ぶため、ペルシャ全土から処女を王宮に集めました。その中にユダヤ人の娘エステルがいたのです。彼女は幼くして両親を亡くし、親族モルデガイに引き取られて育ちました。モルデガイは彼女を自分の娘のように育て、彼女もまたモルデガイを父のように慕いました。
エステルは欲心のない従順な娘で、その従順さの故に侍従ヘガイの目に留まります。彼女は1年間、王女としての訓練を受けますが、侍従ヘガイの特別な後ろ盾もあって、ついに王妃として選ばれたのです。
ある日モルデガイは、王宮の門に座っていると、王の部屋を守る侍従2人が王の暗殺計画をしているのを聞きます。それをエステルに伝え、彼女はそれをモルデガイの名をもって王に告げます。こうして王の命を救ったモルデガイのことが、王の歴史書に書き残されました。
これらの後、アマレク人ハマンという欲心の強い男が王にうまく取り入って昇進し、大きな権力を持ちました。ハマンは自分に対して敬礼するよう命令を出しました。ところが、モルデガイが自分に頭を下げないのを見て、ハマンはモルデガイをはじめ、同族のユダヤ人を皆殺しにする計画を立てます。自分に敬礼しないことへの腹いせなのに、彼は「王に従わない民を滅ぼしたい」という口実を持って王に取り入り、全ユダヤ人虐殺の勅令を出してしまったのです。
「新婦」は勇気奮って王圏復帰の先頭に
それを知ったモルデガイは悲憤して荒布を身にまといます。そして王妃エステルに「王のところへ行ってハマンの陰謀をやめさせるよう進言せよ」と命じました。
策略を仕組んだのは王の重鎮ハマンです。それを打ち破るには、いくら王妃といえども命を懸けなければならない状況です。彼女はまず3日断食をします。彼女の断食期間には、全ユダヤ人も共に断食をしました。そのような民族的条件の基台の上で、エステルは勇気を奮って王の前に出ていったのです。そのエステルの命懸けの信仰と行動に、神が働きます。
王妃エステルは、重鎮ハマンが同座する場で、勇気を持って、同胞が殺されかけていること、自分の命を救ってほしいことなどを王に打ち明けます。その時、王の命の恩人であるモルデガイをハマンが殺そうとしていることも判明し、王は重鎮ハマンの陰謀を即座に見破って、彼を処刑するよう命じたのでした。
韓鶴子女史は、母の国日本の使命について語られる時、エステルの命懸けの信仰に触れながら次のように語られました。
「旧約聖書に現れた偉大な女性の1人に…ペルシャ王朝の王妃となったエステルがいます。彼女はイスラエルの民族を救うために、『私が、もし死ななければならないのなら、死にます』と言いながら、死を覚悟するほどの壮絶な決意で、王妃の地位と命を懸けて立ちました。3日間の断食をし、怨讐ハマンの陰謀を粉砕するために勇敢でありました。…きょう私たちは、エステル王妃の『私が、もし死ななければならないのなら、死にます』という、死を覚悟した勇気と知恵を教訓として、世界的な王圏復帰の先頭に立たなければなりません。再臨主の前の新婦の立場にいる私たちの使命を果たさなければなりません。2000年のキリスト教が成し得なかった再臨主を迎えることを、私たちエバがしなければなりません」(1991.9.18)と。
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次回は、「許しの愛を説くホセア」をお届けします。