https://www.kogensha.jp

異邦人に遣わされたヨナ

(光言社『FAXニュース』通巻744号[2002825日号]「シリーズ旧約聖書人物伝」より)

岡野 献一

 『FAXニュース』で連載した「旧約聖書人物伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。

 イエス様が「邪悪で不義な時代は、しるしを求める。しかし、預言者ヨナのしるしのほかには、なんのしるしも与えられないであろう。…ヨナが三日三晩、大魚の腹の中にいたように、人の子も三日三晩、地の中にいるであろう。ニネベの人々が、今の時代の人々と共にさばきの場に立って、彼らを罪に定めるであろう。なぜなら、ニネベの人々はヨナの宣教によって悔い改めたからである」と語られたヨナ。彼は南北王朝分立時代に、北朝で活躍した預言者です。

大魚の腹中で宣教の決意

 さて、アッシリアは隙あらば北イスラエルを侵略しようと虎視眈々(たんたん)と狙っている敵国です。神様は、その敵国であるアッシリアの都ニネベに、預言者ヨナを遣わそうとされました。

 ヨナは民族意識の強い愛国心あふれる預言者でした。そんな彼は神様の啓示を聞いた時、どうして敵国の救いのために自分が行かなければならないのかと不快に思い、神様の命から逃れようとします。彼はニネベと逆方向の地中海岸へ行き、西方のタルシシ行きの船に乗り込みました。神様はそんなヨナに対し、海に慣れた水夫でさえ慌てふためく暴風を起こされたのです。

 ヨナはよほど度胸の据わった人物だったのでしょう。海が荒れ狂う中で熟睡していました。ヨナは自分の不従順ゆえに起こった海難であることを悟り、水夫に「わたしを海に投げ入れなさい」と命じます。海に投げられたヨナは大魚に呑み込まれ、三日三晩魚の腹の中で祈りの時を過ごし、悔い改め、宣教の決意を固めました。

 彼は大魚から吐き出されるとすぐニネベに行き、堂々と「40日を経たらニネベは滅びる」と叫んで宣教しました。するとニネベの人々は神様を信じ、断食をし、心から悔い改めたのです。神様はニネベの人々が悔い改める姿を見られ、滅ぼすことをやめられました。

 ところがヨナはそれを不快に思います。なぜなら敵の都が滅びないだけでなく、自分の預言がうそになってしまうからです。民族主義的な愛国者であるヨナにとってそれは我慢ならないことであり、「死ぬ方がましだ」とまで言って神様へ不満をぶちまけます。神様は「あなたの怒るのは、よいことであろうか」と返答されますが、しかしヨナはニネベが滅亡するのを期待して、事の成り行きを見ようと丘の上に座って町を見ていました。

▲大魚から吐き出されたヨナ(ギュスターヴ・ドレ画)

万人救済願う神の救援摂理

 時に神様はヨナを暑さの苦痛から救うため、とうごまを育て、彼の頭上に日陰を設けました。ヨナはそのとうごまを非常に喜びます。ところが翌日とうごまが枯れ果て、ヨナはそれをとても残念がります。そこで神様はヨナに対し、「あなたは労せず、育てず、一夜に生じて、一夜に滅びたこのとうごまをさえ、惜しんでいる。ましてわたしは12万あまりの、右左をわきまえない人々…ニネベを、惜しまないでいられようか」とご自身の心情を諭すように語られたのでした。

 このヨナ書の内容は、万人救済を願われる神様の愛の世界が語られています。クリスチャンの多くは、信仰ある者だけが救われ、不信者は永遠の火の刑罰で滅ぼされるのだと考えています。しかし本当はそうではなく、統一原理が説くように、より神様から遠い者(カイン)を救うために、信仰者(アベル)を用いようとされておられるというのが、神様の救援摂理だったのです。

 今日まで真のご父母様は怨讐をも愛する「真の愛」によって救援摂理を行ってこられました。それはヨナに対して語られる神様の万人救済の心情と通じるものです。

 お父様は祈りの中でヨナに触れ、南北統一を願って次のように祈っておられます。

 「私たちの教会が…ある勝利の基準を持ったかもしれません。しかしこのようなことが私たちの目的ではありません…。南韓と北韓におさきになったあなたのご経綸の中には、歴史的な悲しみが宿っているということを…知らなければなりません。私たちの先祖と…先輩たちが責任を負った使命を果たせなかったことにより、数十年苦難の歴史が延長されたという事実を考えるとき、私たちはヨナが悔い改めたのと同じ心情を持ち、この民族の将来のために責任を果たさなければなりません」(『父の祈り』1970.11.1)と。

---

 次回は、「ユダヤ教を刷新したエズラ」をお届けします。