2022.03.01 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
ウクライナ軍事侵攻、欧米日が露への金融制裁の「最終兵器」を発動
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、2月21日から27日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
英首相、コロナ規制の撤廃を表明(21日)。ウクライナの親露派地域独立、プーチン大統領が承認しウクライナ東部へ派兵命令(21日)。ロシアのウクライナ侵攻開始をNATO(北大西洋条約機構)当局者が発表(23日)。ウクライナ、戦時体制発令へ(24日)。習主席、プーチン大統領と電話会談。習氏、ロシアの立場に理解を示す(25日)。米国とEU(欧州連合)委員会など、ロシアのSWIFT(スイフト/国際決済システムのこと)排除を合意(26日)、などです。
欧米そして日本は2月24日、ロシアのウクライナ軍事侵攻の拡大を受けて金融制裁の第一弾を発動し、さらに26日、米国やEU委員会などがロシアの大手銀行をSWIFTから締め出す金融制裁を科すことで合意し、日本も参加する意思を表明しました(日本時間2月27日夜)。
金融制裁の「最終兵器」といわれる措置が動き出したのです。
制裁対象となる銀行はまだ確定していませんが、仮に全ての銀行が標的となれば、ロシアは国内生産の数%を失う可能性があります。
SWIFTすなわち国際銀行間金融通信協会は、1973年に発足した民間団体で、ベルギーに本部を置いています。
企業などが海外の企業との決済に必要な支払い通知などの情報を迅速にやりとりする仕組みを提供しています。
日本を含む200を超える国と地域の約1万1,000の金融機関が利用し、1日約4,200万件のやりとりを仲介しています。
今回の措置によって国境をまたぐ送金でSWIFTを介せなくなれば、企業は個別にメールやファクスなどで取引先と決済の連絡を取るなど、代替手段を講じる必要が出てきます。
著しく効率が損なわれ、取引が制限されるために経済制裁として強い効果があります。
経済制裁としての効果は実証済みとされています。
2012年には核開発を巡ってイランの金融機関が排除されました。その結果イランの原油輸出の収入が半減したのです。
ロシアは原油や天然ガスに加え、小麦などの食糧も輸出しているので、影響は広く及ぶことになります。
SWIFTからの排除は、ウクライナ侵攻前から取り沙汰された制裁の「切り札」でした。
国際決済が困難になれば、ロシアの貿易は大幅に減り、国民生活にも影響が及ぶこととなります。制裁の狙いは、プーチン政権に対するロシア国民の不満を高めることにあるのです。
欧米日による追加制裁にはもう一つの柱があります。ロシア中央銀行の外貨準備の利用を制限する措置です。
ドルやユーロとルーブルの交換を禁止するのです。通貨ルーブルはウクライナ危機後に急落していますが、これまでロシアは、保有する米ドルやユーロを売って、ルーブルを買い支える為替介入をしてきました。
それを封じる狙いがあります。
ロシアに通貨を守る能力がなければ、ルーブルは暴落します。結果としてインフレも進み、ロシア中銀は無防備状態に陥ることとなり、さらに通貨安が進めば、投資資金が国外に流出したり、輸入品の価格が急騰したりする可能性があるのです。
欧米メディアによれば、ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合した2014年にもSWIFT排除案が浮上していたといいます。
当時のロシア財務相は、損失としてGDP(国内総生産)が年5%縮小すると試算していたのです。それによって停戦交渉の動きも出てきました。
しかし合意は容易ではありません。刻々と変化する中で、さらなる事態の悪化も想定しながら、慎重かつ大胆に対応策を打ち出していかなければなりません。