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~情報分析者の視点~

プーチン大統領の「狙い」とは

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、214日から20日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 ウクライナ、NATO(北大西洋条約機構)加盟目指す方針を示唆(14日)。独、露対面での首脳会談(15日)。韓国大統領選スタート、保革激突(15日)。EU(欧州連合)「一帯一路」に対抗、アフリカに19.5兆円(18日)。G7(先進7カ国緊急外相会合をドイツで開催、ウクライナ情勢協議(19日)、などです。

 今回は、ウクライナ危機とプーチン大統領の狙いについて解説します。

 バイデン大統領は18日、ホワイトハウスで記者団に、ロシアがウクライナに軍事侵攻する可能性について「現時点で、プーチン大統領は決断をしたと確信している」と述べました。

 さらに19日、G7緊急外相会合が議長国であるドイツの呼び掛けで開かれ、経済制裁を含む最大限の圧力をロシアに掛けることで一致しました。

 背景には、外交による解決の手詰まり感があります。
 27日、仏露の対面での首脳会談がモスクワで行われ、さらに215日、同じくモスクワで独露の対面首脳会談が行われましたが、マクロン大統領、ショルツ首相によるプーチン大統領の説得が「不発」に終わったのです。

 ベラルーシ国防省は21日、20日に終了するはずだったロシアとの合同軍事演習の延長を発表しました。緊張は高まる一方です。

 昨年10月末から11月にロシア軍がウクライナ国境付近に配備されたことから、一気にロシア軍によるウクライナ侵攻懸念が高まりました。
 そして軍事行動を起こすとすれば、配備された地域が「凍土」になっている2月の可能性が高いと分析されていました。

▲プーチン大統領

 ここでプーチン大統領の「狙い」について考えてみましょう。

 プーチン氏の動機の根底には、自らによる「ロシア帝国再建」=強く誇り高いロシアの実現があります。
 プーチン氏は一貫して、これ以上のNATO東方拡大、特に歴史的、精神的に一体であると見る隣国ウクライナの加入は許されないと主張してきました。

 ロシア側は1990年のジェームズ・ベーカー米国務長官(当時)の発言を米国の「約束」と宣伝しています。当時、ベーカー氏がゴルバチョフ書記長(当時)に対して「NATOがドイツの東に1インチも拡大することはない」と発言したことを指しています。

 しかしこれはあくまでも当時の情勢を背景にした「発言」であり、国家間の約束に当たる条約の形にはなっていないのです。

 むしろ公式のものとしては、1994年に米英露が調印した「ブダペスト覚書」があり、ここではウクライナの領土保全や安全保障について明記されているのです。
 ところがロシアによるクリミア半島併合によってこの覚書の精神は踏みにじられてしまいました。

 にもかかわらず、プーチン氏は欧米の約束違反を繰り返し主張しています。
 何よりもウクライナは、ロシアの安全保障上の緩衝地帯としての要衝なのです。NATO編入を不可能にする環境づくりのチャンスを狙っていたと見るべきでしょう。

 そして重要なことは、「なぜ今なのか」という点です。

 第一に、プーチン氏の大統領任期は2024年までだということです。

 今後の動向について明言はされていませんが、再選への環境づくりが念頭にあるものと思われます。憲法も改正し大統領任期の制限は事実上なくなっています。必要なのは国民の圧倒的な支持です。

 2018年の大統領選は、クリミア半島併合を背景に圧勝しました。旧ソ連だったウクライナの「奪還」は、そのための最も有効なステップと考えているのでしょう。

 第二に、バイデン政権だからです。

 プーチン氏は、①バイデン政権の「弱腰」と②米国が中国との競争にあまりにも偏っている姿勢を見透かして、今回の行動を決断したと思われます。

 2014年のクリミア半島併合の決断も、前年にオバマ政権がシリアに対する軍事的制裁を表明しながらも実行しなかった「弱腰」を見透かしたものだったといえるのです。

 重要なことは分析よりも行動です。
 米国の弱さを補う結束が求められます。G7をはじめ全世界が結束して、ロシアのウクライナ軍事侵攻による現状変更を阻止しなければなりません。

 ロシアの行動が容認されれば、次には中国の行動が全世界を揺るがすことになるからです。

 中国、ロシアには国連常任理事国の資格はありません。国連改革が世界平和の必須要件なのです。

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