世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国、全人代開幕~「安定」を連呼

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、228日から36日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 露大統領、和平条件は「中立化」と表明(28日)。国連総会、対露で緊急特別会合開催(28日)。露の常任理事国解任「選択肢」、英首相発言(31日)。ウクライナ、中国に露の阻止要請(1日)。米国がICBM(大陸間弾道ミサイル)実験を無期限延期(2日)。韓国大統領選、野党候補が一本化(3日)。中国、全人代の開幕(5日)、などです。

 ロシアによるウクライナ侵攻が苛烈さを増す中、5日、北京で中国の全国人民代表大会(全人代)が開幕しました。

 全人代とは、日本の国会に相当する機関で、約3,000人の代表が集まり年に1度開催されます。
 中国の憲法では「国家最高権力機関」と位置付けていますが、実際は中国共産党の指導下にあり、党内で決めた方針にはんこを押すだけの「ゴム印会議」とも揶揄(やゆ)されています。

 李克強首相は5日、恒例の政治活動報告を行い、2022年の実質GDP(国内総生産)成長目標を「5.5%前後」とする方針を示しました。
 政府が発表した国防予算は前年比7.1%増で成長率目標を上回っています。

 李氏は報告で「わが国の発展が直面するリスクや課題は著しく増加している」と危機感を示しました。

 経済状況は深刻です。「ゼロコロナ政策」による中国経済を支えてきた中小民間企業の苦境は予想以上であり、さらに不動産市場の低迷はさらに深刻なのです。
 外部要因として、ロシアによるウクライナ侵攻や米中対立などの影響もあります。

 李氏は約1時間の報告で、安定を意味する「穏」に76回も言及。「今年はあくまで安定を最優先し、安定の中で前進を求めなければならない」「安定成長をより優先的な位置に据える必要がある」と訴えました。

 既述のように、中国政府が公表した2022年予算案の国防費(軍事費)は経済成長率目標を上回るものになりました。

 前年比7.1%増の総額14,505億元(約264,340億円)で、3年ぶりの高い伸びです。日本の22年度予算案の防衛費(54,005億円)の約4.9倍となっています。

 今後、軍創設100周年の「奮闘目標」と位置付ける2027年に向け、軍備増強は続くものと思われます。

 李氏の報告の中の台湾問題に触れた箇所で、外部勢力の干渉に断固反対すると述べ、米国の台湾への関与をけん制しました。過去の報告にはなかった踏み込んだ発言でした。

 中国は自国やロシアなどの「力による現状変更」を正当化する一方で、これに反対する日米欧の民主主義陣営の対抗措置を「干渉」と位置付ける身勝手な発言を続けています。

 習氏の3期目続投が既成事実であるかのように進められていますが、国内経済や軍事状況の激変による変化もあり得ます。
 今後の展開に目が離せません。