2022.02.21 22:00
「性解放理論」を超えて(21)
ライヒの思想③~性の解放
人類は今、神とサタンの総力戦の中に生きています。
「統一思想」すなわち「神主義」「頭翼思想」によって生きるのか、神の言(ことば)を否定する思想を選択するのか…。
台頭する性解放理論を克服し、神の創造理想と真の家庭理想実現のための思想的覚醒を促す「『性解放理論』を超えて」を毎週月曜日(予定)にお届けします。
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大谷明史・著
三 フロイト左派を超えて
(一)ライヒ
(3)性の解放
ライヒは性器性欲にかけられている禁止を解くのが治療目標であるという結論を強く信奉していました。そして、「治療目標たるオルガスム能力の回復は、既成の性格を改良し、……心の深淵から心的エネルギーの解放を意図しなければならない(※7)」と考えたのです。そしてライヒは「快楽はわるいことではない、いいことだとみとめ、性について罪悪感をもたないことだ(※8)」、「性の幸福をまったく、実際に、肯定する(※9)」と、性の解放を主張しました。ライヒは、規範を放棄して性を解放せよと叫んだのです。しかしそれは、フロイトが恐れたように、人間が動物的な存在になるということです。人間は本来、生心が主体、肉心が対象であって、肉心(性)が生心(規範)に従う時、人間は本来の姿、愛的人間になるのです。
(4)神経症と非行
ライヒによれば、性の抑圧が青少年の神経症の原因です。彼は次のように言います。
思春期の葛藤や、思春期の神経症のあらゆる現象は、ひとつのことから生じる。これは、青少年は15歳ぐらいで性的成熟に達する、つまり、性交をしようとする生理的な要求や、生殖する、あるいは子どもを産む能力を、感じるという事実と、性交に対して社会が要請する法的なわく組、つまり結婚、を経済上また心の構造上つくりあげることができないという事実とのあいだの葛藤なのだ(※10)。
ライヒはさらに、性の抑圧が「必然的に、少年非行をおこすことになる(※11)」と言います。そのようなライヒの主張は伝統的な道徳に真っ向から反するものでした。
ライヒは、性の抑圧が青少年の神経症の原因であると言います。しかし「統一思想」から見れば、神経症の原因は性の抑圧ではなくて心情の傷であり、愛の傷なのです。ライヒはまた、性の抑圧が非行の原因であると言いますが、そうではありません。性の解放、すなわち無軌道な性が非行の原因となっているのです。
(5)新しい道徳と性経済
ライヒによれば、「伝統的な道徳のイデオロギーは、権威主義の結婚制度をささえる基石だ。それは性の満足をもとめることと一致せず、性はよくないものだという態度を前提としている(※12)」のです。そして「われわれは標準というものをつくらない(※13)」と、伝統的な道徳を否定しました。
そしてライヒは、既存の道徳と闘い、新しい道徳、規律を求めていくと言います。それでは、新しい道徳とはいかなるものでしょうか。それは性に対する抑圧のない自然な性の道徳であると言うのです。
ライヒによれば、新しい性道徳は性経済を目的とするものです。ライヒの言う「性経済にしたがう規律のエッセンス」とは、「絶対的な規範とか戒律などいっさいもたず、生きていく意志と生活のなかのよろこびこそが社会生活を調整するものと認識することにある(※14)」というものです。
ライヒはさらに、新しい道徳においては、「おもいやりの性と官能の性が分離されていないこと。……同性愛だろうと非性器的なものだろうと、昇華されていないどんな性の奮闘も抑圧されていないこと。……性と、生きるよろこびが、完全に肯定されていること(※15)」などと、性を謳歌(おうか)する道徳を主張したのです。
ライヒは「一生、一夫一婦でくらしていける人には、そうさせよう。しかし、そうできない人、そうしたら、くさってしまう人は、自分の人生を違ったものに整理し直す機会をもつべきだ(※16)」、「男と女が同数の集団では、パートナーをかえる可能性は、よりおおきいのだ(※17)」と言って、禁欲主義と一夫一婦制を否定しました。
絶対的な道徳、規律を認めないという点では、ライヒはフロイトの立場を相続していました。ところがフロイトが絶対的な道徳に代わって、各自の理性に従って、自律的な道徳を確立しようとしたのに対して、ライヒは性に関する規律を伴う一切の道徳を廃し、性の自由を完全に肯定する新しい道徳を打ち立てようとしたのです。結局、それは人間の道徳性、人格性を廃し、人間を動物に貶(おとし)めようというものでした。
ライヒはさらに、新しい性道徳において、「より高い精神的水準に性を高める」とか、「おもいやりの性と官能の性を分離しない」などと、主張しました。しかしそれはライヒの言う新しい性道徳によっては実現不可能です。神の言(ことば)に由来する規範に基づいた、真なる道徳によって、初めて実現し得るものなのです。
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※7 ポール・ロビンソン『フロイト左派』せりか書房、1983(37)
※8 ウィルヘルム・ライヒ『性と文化の革命』(6)
※9 同上(245)
※10 同上(87)
※11 同上(269)
※12 同上(42)
※13 同上(131)
※14 同上(30)
※15 同上(132)
※16 同上(32)
※17 同上(245)
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次回は、「ライヒの思想④~家庭の否定」をお届けします。