2018.05.15 12:00
シリーズ・「宗教」を読み解く 15
憎しみを超える
ナビゲーター:石丸 志信
2003年5月18日にエルサレムで開催された国際会議の晩さん会で、一人のユダヤ人男性が自身の家族に起こった出来事を話し始めた。
彼は、最近19歳の息子をテロリストの爆弾で失った。息子の臨終に立ち会った彼は、医者からこう言われた。
「この書類に署名してくれるなら、息子さんの臓器をパレスチナ人の8歳の少女を救うために移植することができる。そうしてくださいますか?」
彼は、しばらく祈って答えた。
「はい。息子の命を誰かの命を救うために使ってほしい」。そして彼は書類に署名し、息子の臓器提供に同意した。
写真はイメージです
このユダヤ人の話に耳を傾けていた一同は、語り手ばかりか、ユダヤ教の教師(ラビ)が宗教指導者としてこの家族をよく導いてきた、と称賛した。宗教者の役割は悲痛の中にあえぐ人々を慰め励まし、憎しみを超える力を与えることだと見せてくれた。
会議に集った、キリスト教の代表とユダヤ教の代表が、共に感動の涙を流した。一人のユダヤ人の掲げた和解の灯火が、参加者一同の心に火をともした。
二千年、互いに憎み合い、恨みを抱き、二つの伝統を引き裂いてきた壁が崩れ始めた。