2022.01.17 22:00
「性解放理論」を超えて(16)
エロスとタナトス
人類は今、神とサタンの総力戦の中に生きています。
「統一思想」すなわち「神主義」「頭翼思想」によって生きるのか、神の言(ことば)を否定する思想を選択するのか…。
台頭する性解放理論を克服し、神の創造理想と真の家庭理想実現のための思想的覚醒を促す「『性解放理論』を超えて」を毎週月曜日(予定)にお届けします。
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大谷明史・著
二 フロイトを超えて
(七)エロスとタナトス
フロイトによれば、人間は本来、野蛮な性的人間、あるいはむしろ性的動物というべきものであり、互いに憎しみと敵意を抱く存在であるとされていました。そして愛などによって人間を結び合わせるなど、とてもできないと、フロイトは考えていました。ところが1920年以後、フロイトは、性本能と自己保存本能を統合した生命力という意味で「エロス」(Eros)という言葉を用いて、エロスによって人と人は結びつけられると主張するようになりました。フロイトはさらに、エロスに対立する破壊本能としての「タナトス」(Thanatos)が人間の内部にあると主張しました。フロイトは次のように述べています。
長い躊躇(ちゅうちょ)と動揺を経て、われわれはついに二つの基本的本能、エロスと破壊本能[タナトス]の存在を認めることに決めた。……前者の目標は、統一体を確立してそれをどんどん大きくしていき、それを維持する、要するにしっかり繋(つな)ぎ留めておくことである。後者の目標は反対に結合をばらばらにし、それによって事物を破壊することである。破壊本能の場合、その最終目標は生物を無機的状態に導くことだと考えられる。それゆえ、この本能を死の本能と呼ぶこともできよう(※20)。(『精神分析学概説』)
小此木啓吾(おこのぎけいご)は、本来、狼(おおかみ)のような人間が、エロスによって互いに親密な関係になると説明しています。
「人はみな狼」の喩(たと)えのように、それぞれの欲望、自己主張、競争心をもち、お互いに対立し、敵対し合っているはずなのに、社会集団を形成し、その中で生きる場合には、何故これらの対立・敵対関係を抑圧し、友好的で親密な感情を共有するのであろうか。ひとえにそれは、お互いを結びつけるエロス(性愛)があるからである(※21)。
かくしてフロイトはエロス理論を持ち出すことによって、古い二元論──エゴとイド──に代わって、新しい二元論、すなわちエロスとタナトス(死の本能)の戦いを提示したのです。アンソニー・ストーは、フロイトの提示した「エロスとタナトスの戦い」について、次のように述べています。
[文明とは]、エロスに仕える一つの過程である。エロスの目的は、個々人を、人類という一つの大きな単位へと統一することである。……ところが人間に生まれつきそなわっている攻撃本能、すなわち万人の万人にたいする憎悪が、この文明の計画に反対する。この攻撃本能は、エロスとならんで宇宙を支配する二大原理の一つである死の本能から生まれたものであり、死の本能を代表しているものである。……文明とは、人類の間で繰り広げられる、エロスと死との、生の本能と破壊本能との、戦いなのである。……したがって文明の進展はたんに、生に向けての人類の戦いであると言うことができよう(※22)。
フロイトは、エロスとタナトスという善と悪の闘いという壮大なビジョンを打ち出したのです。アンソニー・ストーによれば、
ウィーンの上流階級の神経症を理解しようと必死になっていた医師がその研究から、人間の条件に関するこんなに壮大な概念を引き出すとは、誰が予想していただろうか。性と攻撃の二重性の探究は、善と悪という二つの大きな力が対立するという宇宙的なヴィジョンへと変えられた(※23)。
フロイトは、愛などによって人間を結び合わせるなど、とてもできないと考えていました。ところが後に、フロイトは、性本能と自己保存本能を統合した生命力という意味でエロスという言葉を用いて、エロスによって人と人は結びつけられると主張するようになったのです。
性本能であるリビドーは本来、敵対的であるとされていました。ところがエロスと言っても性本能に自己保存本能が加わっただけで、性本能とあまり変わりありません。実際、フロムが指摘しているように、『自我とエス』(1923)において、彼はエロスを性本能と同一視しているのです(※24)。ところが、なぜリビドーは敵対的なもので、エロスは友好的なものなのか、納得のいく説明がなされていません。
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※20 アンソニー・ストー『フロイト』(88)
※21 小此木啓吾(おこのぎけいご)『フロイト・その自我の軌跡』NHK放送出版会、1973(137)
※22 アンソニー・ストー『フロイト』(89)
※23 同上
※24 エーリッヒ・フロム『フロイトを超えて』(149)
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次回は、「性の民主主義、理性の崇拝」をお届けします。