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精誠の女性、ルツ

(光言社『FAXニュース』通巻669号[2001年10月10日号]「シリーズ旧約聖書人物伝」より)

岡野 献一

 『FAXニュース』で連載した「旧約聖書人物伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。

 新約聖書の冒頭に記されたイエス・キリストの系図には特別に4人の女性が登場します。その1人がルツです。ルツとはヘブライ語で「友情」という意味で、その名の示すとおりルツは姑(しゅうとめ)ナオミに対し、生涯を通じて変わることのない精誠を尽くした女性です。

イエスの系図に登場する女性の1

 真のお父様は、ルツについて次のように語っておられます。

 「マタイによる福音書を見れば、バテシバが現れ、ルツが現れ、タマル、そしてマリヤが現れます。すべて淫行の女性です。彼女たちは、2人の男と対しました。本妻は天の相続ができません」(1998.5.26)と。

 このみ言のとおりルツは正式な夫、ナオミの息子との間にではなく、親族ボアズとの間に天の血統を残しました。

 時は士師時代。イスラエルに飢饉(ききん)があり、エリメレクという人が妻ナオミと2人の息子を連れ、故郷ベツレヘムを出てモアブへ移住しました。モアブはかつてイスラエルに敵対した怨讐の地です。

 間もなくエリメレクが亡くなり、息子たちはそれぞれモアブの女性と結婚しました。1人はオルパでもう1人がルツです。彼女たちはナオミをとても慕いながら生活しました。ところが数年後、息子たちは相次いで亡くなり、ナオミと2人の嫁だけが取り残されました。

 ナオミは飢饉が去ったことを知り、故郷へ帰ろうと思い立ちます。嫁たちもイスラエルへ行こうとしますが、ナオミは一緒に来ても希望がないと思い、2人に実家へ帰って再婚し、幸せになるよう勧めました。

 しかしそれでもついてこようとするので、ナオミが説得すると、オルパは実家へ帰っていきました。ところがルツはナオミから離れようとしません。ルツは「あなたの神は私の神です。あなたの死ぬ所で私も死にます」と真の神を慕ったのです。ナオミに従っていけば、もしかすると不幸が待っているかもしれないのに、それでもルツは精誠を尽くしていこうとしました。

 2人がベツレヘムに着いた時、落ちぶれたナオミを見て町は騒ぎ、「これはナオミですか」と尋ねます。彼女は「私をナオミ(楽しみ)と呼ばずマラ(苦しみ)と呼んでほしい」と答えます。家族を失い無一文になったばかりか、連れ帰ったのは異邦の嫁。人々はナオミの身に何事が起こったのかと驚き怪しんだのです。

▲ボアズの畑で落ち穂を拾うルツ(ギュスターヴ・ドレ画)

神は精誠尽くす者にみ手を差し伸べる

 さてルツは落ち穂(ぼ)拾いに出掛けました。落ち穂拾いは貧者が飢えないよう配慮された哀れみの律法で、「穀物の穂を束ねる時落ちた穂は、神が貧者のため落とした穂なので拾ってはならない」というものです(レビ記199節)。ナオミの生活は困窮していました。

 ルツは必死に落ち穂を拾ううち、亡き義父の親族であるボアズの畑に来ていました。その時ボアズも畑に来て勤勉に働くルツに目を留めます。それはまさに神様の導きでした。ボアズはルツが早朝から休まず働いていることを知り、彼女にいつもこの畑に来るよう勧め、畑で働く若者にわざと落ち穂を落とすよう命じます。このボアズの親切によってルツは大量の落ち穂を集めました。

 大量の穀物を持ち帰ったルツにナオミは驚き、だれの畑で拾ったのかと尋ねます。それがボアズであることを知ったナオミは神に感謝しました。ナオミは「その人は最も近い親戚ゴエルです」というのです。ゴエルとは親族で落ちぶれた者があれば助ける義務を持つ人のことです(レビ記2525節)。このことは寄る辺なき身だったナオミとルツに希望の光を与えました。ルツはボアズの畑で懸命に働き、ボアズはそんなルツに思いを寄せ始めるのでした。

 やがてナオミはルツにボアズとの結婚を勧めます。ルツは亡くなったとはいえ正式な夫のある身です。しかし彼女は姑の意向に従って結婚を承諾し、ボアズの寝ている所へ忍び込んだのでした。ボアズもまた自分がナオミのゴエルであることを知ると、レビラト婚(義兄弟結婚、申命記255節)を望み、ルツと晴れて結婚することになりました。その2人の間に生まれたのが、神様に祝福された血統ダビデの祖父オベデです。

 神様は精誠を尽くす者に必ず救いのみ手を差し伸べられるのです。

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 次回は、「祈りの人サムエル」をお届けします。

画像素材:PIXTA