2021.12.12 17:00
ギデオンと精兵300人
岡野 献一
『FAXニュース』で連載した「旧約聖書人物伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
ヨシュアの死から、サウルがイスラエル統一王国の初代王となるまでの約400年間、士師たちがイスラエルを治めますが、その1人にギデオンがいます。ギデオンとはヘブライ語で「切る者」の意です。ちなみにホテルの部屋や学校などに聖書を置く活動を行っている「ギデオン協会」はこの士師の名からとられています。
神は土師をもって不信仰を刷新
ヨシュアの死後イスラエルの長老たちは忠実に神に仕えましたが、その長老たちが亡くなると、民はカナンの悪習に染まり、偶像バアルを崇拝するようになりました。信仰がぐらつくと四方から敵が襲来し、イスラエルは苦しめられるのです。しかしその時神は士師を起こして信仰を刷新せしめ、イスラエルを救われました。
ところが士師が亡くなると民は再び不信仰に陥り、敵に襲撃されてしまうのです。ギデオンが神に召されたのは、やはり民が不信仰に陥っていた時です。7年間にわたってミデアン人が襲来し、穀物や家畜を略奪するので、地は荒れ果て、食料も底をつくありさまでした。
さて、ギデオンがミデアン人の襲撃を避けて、酒ぶねの中で麦を打っていた時のことです。天使が現れ、彼に「ミデアン人の手からイスラエルを救い出しなさい」と告げました。その夜、ギデオンは神のみ言に従ってバアルの祭壇や像を破壊し、代わりに新しい祭壇を築いて、神に燔祭(はんさい)をささげました。
やがてミデアン人がアマレク人と連合し、ヨルダン川を渡って侵入してきました。神霊に満ちたギデオンがラッパを吹き鳴らし、イスラエルの兵士を招集すると3万2千人もの人々が集まってきました。そこでギデオンは神に尋ねます。
「神様、本当に私の手によってイスラエルを救おうとされるなら、そのことをお示しください。私は羊の毛を地面に置きます。もし毛だけが夜露にぬれ、周りの地面が乾いていたなら、私は戦います」
翌朝早く起きて見ると、そのとおりになっていました。ギデオンは再び神を試みて尋ねます。「私をお怒りにならないように願います。もう一度、試させてください。今度は羊の毛は乾いて、地に露があるようにしてください」、すると、そのとおりになりました。神が共におられることをギデオンは確信します。
少数のイスラエル兵でミデアン人に勝つ
神はギデオンに言われました。
「兵士が多すぎる。おそらく彼らは『自分の手で自分を救った』と言うであろう。それゆえ『恐れおののく者は帰れ』と言いなさい」
ギデオンが兵士を試みると2万2千人が帰り、1万人が残りました。神は再びギデオンに言われました。
「まだ多い。彼らを川に連れていきなさい。膝をつき、かがんで水を飲む者は帰らせ、手で水をすくって飲み、敵に隙を見せない者だけ戦いに連れていきなさい」
こうして残った兵士はわずか300人となりました。
その夜、ギデオンは僕(しもべ)1人を連れて敵陣に忍び込みました。彼らが一つの天幕に近づくと中から話し声が聞こえました。
「私は夢を見た。大麦のパンが陣中に転がってきて、天幕を打ち倒した。きっとギデオンの軍隊がわれわれを打ち倒す夢に違いない」
ギデオンはミデアン人たちがイスラエルを非常に恐れていることを知り、その場で神を礼拝します。そして精兵300人が待つ陣地へ帰ってきて、「立てよ、神はミデアンの軍勢をあなたがたの手に渡される」と激励しました。
ギデオンは兵士を三つの部隊に分け、敵陣を包囲しました。ギデオンが合図すると、兵士はラッパを吹き、携え持ったつぼを打ち砕くと、中に隠してあったたいまつが一斉に輝き、彼らは勇ましく進攻します。するとミデアン人たちは大軍の襲来だと思って恐れおののき、同士討ちをしながら敗走しました。ギデオンの大勝利です。イスラエルが信仰に堅く立ち、神のみ言に従った時、大軍をわずか300人で撃ち破ったのです。
出エジプトの時大集団だったイスラエルが不信に陥って荒野で倒れ、一方、信仰を立てエリコへ進軍した内的イスラエルが4万人だったことを考え合わせると、勝利は信仰によってもたらされるのです。
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次回は、「ペリシテ人と戦ったサムソン」をお届けします。
画像素材:PIXTA