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「性解放理論」を超えて(8)
性的外傷説から心的外傷説へ①

 人類は今、神とサタンの総力戦の中に生きています。
 「統一思想」すなわち「神主義」「頭翼思想」によって生きるのか、神の言(ことば)を否定する思想を選択するのか…。
 台頭する性解放理論を克服し、神の創造理想と真の家庭理想実現のための思想的覚醒を促す「『性解放理論』を超えて」を毎週月曜日(予定)にお届けします。

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大谷明史・著

(光言社・刊『「性解放理論」を超えて』より)

二 フロイトを超えて

 フロイトの思想の要点と、それに対する「統一思想」の見解を述べます。

(一)性的外傷説から心的外傷説へ

 フロイトの発見によれば、神経症(neurosis)のほとんどすべての問題は幼児期まで遡るのであり、幼児期における性的虐待が神経症の原因であると、フロイトは考えました。いかなる症状から出発したとしても、最後に必ず性的体験の領域に到達するように思われました。

▲小谷野博『図解雑学・精神分析』より

 患者は幼い頃に受けた性的外傷(sexual trauma)を思い出したくないため、そして誰にも知られたくないために、心の奥底に押し込めています。ところが抑圧していたものが、後に体に転化して現れるのであり、それが神経症のヒステリーであると、フロイトは考えたのです。そして精神分析によって、患者の心の深層を探り、抑圧の事実を明らかにすることによって、患者は神経症から解放されると考えたのです。ラッシェル・ベイカー(Rachel Baker)は抑圧について次のように説明しています。

 われわれが承認できない感情を抱き、これに正面から立ち向かい得ないとき、われわれは、その感情が存在しないように思い込もうとする。われわれは、それを、われわれの意識的注意から追い出す。われわれは、それを押しのける。のちになって、フロイトは、その理論を構成したときに、この行為を「抑圧」と呼んだ(※1)。

 ところが患者の幼児期の悪い思い出は、必ずしも真実ではないことが明らかになりました。その後、フロイトは人の心の根底にある性的エネルギー(リビドーと言う)の意味を、生理的欲求というように拡大しました。けれども、その核心にあるのはあくまで性的な衝動でした。そして幼児にも性欲があり、それは年代とともに変化していくという、幼児性欲説を唱えたのです。リビドーの発展段階を口唇期(こうしんき)、肛門期、男根期(男女の性別に目覚める時期)、潜伏期、性器期としています。初めに口で満たされていたリビドーは、性器期に至ると性器で満たされるようになると言うのです。

▲小谷野博『図解雑学・精神分析』より

 このリビドーの発展段階のどこかで、リビドーの欲求が満たされなかったり、傷つけられたりして、リビドーの発展に固着(fixation)があった場合、それが後の偶発的体験が契機となって、固着点に退行するとき、それが神経症として現れると言うのです。つまり幼児期における心の傷─心的外傷(psychic trauma)─と後の偶発的な外傷的体験(post-traumatic stress disorder)とが、互いにそろった時、神経症という目に見える形になって現れるのだと言うのです。ラッシェル・ベイカーは、固着について次のように説明しています。

 もし、成長してゆく子供が進行を止められ、感情的成長の、一つの段階から他の段階に移行してゆくことができないとき、すなわち、「固着」が生じたとき、彼は、他の方面では成長するであろうが、感情的にはナルチシズム期とかエディプス的愛着の段階とかに留(とど)まる場合が出てくることになる(※2)。

 ナルチシズム期とは、自分の身体のみに快感を見いだす、自己愛の段階であって、リビドーの発展段階の口唇期と肛門期に相当しています。そしてエディプス期とは、異性の親を愛の対象として選ぶ時期であり、男根期に相当しています。

 ラッシェル・ベイカーは、神経症、ヒステリーの症状について、人が外面的には成長しているように見えても、内面的には、リビドーは原始的なままに固着していて、その葛藤から生じるものであると、次のように説明しました。

 このような人は、外面的には文明化しているが、内面的には原始的なままであるから、これに対して彼の意識は、彼を激しく罰する。……この内面の闘争は、さまざまの形をとって現われる。不成功、勉強での能力不足、神経症状、身体の病気、犯罪をふくめた反社会的行為および恐怖症、ヒステリー症状、強迫現象など神経の病気のすべての症状である(※3)。

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※1 ラッシェル・ベイカー、宮城音弥(おとや) 訳『フロイト・その思想と生涯』講談社、1975(93)
※2 同上(159)
※3 同上(159~60)

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 次回は、「性的外傷説から心的外傷説へ②」をお届けします。


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