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ヨセフと、彼を奴隷に売った兄弟たち

(光言社『FAXニュース』通巻640号[2001年6月10日号]「シリーズ旧約聖書人物伝」より)

岡野 献一

 『FAXニュース』で連載した「旧約聖書人物伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。

 ヤコブには12人の息子がおり、その11番目の子をヨセフ、1番末の子をベニヤミンといいます。2人はラケルの生んだ息子でした。父ヤコブが誰よりもヨセフを愛するので、兄たちはヨセフをとても憎みました。

兄弟に陥れられエジプトへ

 ヨセフが17歳になった時のことです。ヨセフは夢を見て、それを兄たちに話しました。「日と月と11の星が私を拝みました」。それを聞いた兄たちは「父と母、そして俺たちがおまえを拝むとでも言うのか」と言って、さらに激しくヨセフを憎むようになりました。

 ある日、兄たちが羊を飼うため牧草を追って野原にいた時、ヨセフがやって来ました。「夢見るやつがやって来るぞ。あいつを殺そう」「いや、穴に投げ入れてしまおう」。そう言って兄たちはヨセフを捕らえ、穴に投げ入れました。

 ユダが「弟を殺してはいけない。商人に売ろうじゃないか」と提案したので、兄たちはそれを聞き入れ、ヨセフは奴隷としてエジプトの地へ売られていくことになります。父ヤコブは、ヨセフが帰ってこないので、死んだのだと思って嘆き悲しみました。

 さて、奴隷として売られたヨセフはパロ王の役人ポテパルの下で働くことになりました。神が精誠を尽くすヨセフを祝福されるので、ヨセフの仕事は大いに栄えます。やがてポテパルはヨセフを信頼し、家の財産全てを管理させました。ところがポテパルの妻は悪い人で、ヨセフに言い寄るのです。誘惑を退け、純潔を守るヨセフに、ポテパルの妻は怒り狂い、彼に無実の罪を着せて牢獄へ追いやってしまいました。

 ある日、パロの給仕役と料理役も牢獄に入ってきました。ヨセフが彼らの見た夢を解き明かすと、そのとおりになり、給仕役は無事に牢獄から釈放されました。

 それから2年後、パロは気になる夢を見ました。パロは夢の意味を知ろうと、知者を集めますが、だれも夢を解くことができません。そのとき給仕役がヨセフのことを思い出してパロに知らせました。さっそくパロはヨセフを呼び「痩せた7頭の雌牛が、太った7頭の雌牛を食い尽くす夢を見た。どういう意味か」と尋ねると、ヨセフは「それは7年の大豊作の後に、7年の飢饉(ききん)が起こるという意味です」と見事に解き明かしました。パロは彼の賢明さに心打たれ、ヨセフをエジプトの総理大臣に任命します。その時ヨセフは30歳でした。

▲ヨセフ、王の夢を解く(ギュスターヴ・ドレ画)

弟をかばう兄の姿に涙を流す

 ヨセフの夢解きのとおり、エジプトに7年の大豊作と7年の飢饉がやってきました。ヨセフは全国に指令を出し、豊作の時多くの食料を倉庫に蓄えさせました。

 やがて飢饉が激しくなった時、ヨセフの兄たちが食料を買いにエジプトへやって来ました。兄たちは、総理大臣がヨセフだとは気付かずに、ひれ伏して食料を売ってくれるよう頼みました。ヨセフはかつて見た夢を思い起こしますが、自分の正体を隠したまま、「末の子を連れてきなさい。そうしたら売ってあげよう」と命じます。

 しばらくして兄たちが弟ベニヤミンを連れてくると、ヨセフは一計を案じ、ベニヤミンを奴隷としてエジプトに残すように仕向けました。するとユダが「弟の代わりに自分が奴隷になる」と必死に訴えたのです。弟をかばう兄の姿を見てヨセフは泣き、自分の正体を明かしました。兄たちは驚き恐れましたが、ヨセフは過去の罪全てを許し、兄弟たちは和解したのです。父ヤコブはヨセフが生きていたことを知り、一族を連れエジプトへやって来ました。こうしてヤコブの子孫はエジプトで増え広がり、イスラエル12部族となっていくのです。

 『原理講論』には「ヨセフも…1人のイエスの模擬者であった。…ヨセフはアベルの立場にいたのであるが…カインの立場にいたその兄たちが、彼を殺そうとした…。彼が30歳になりエジプトの総理大臣になったのち、彼が幼いときに天から夢の中で啓示(けいじ)してくださった教示のとおり(創37511)、その兄たちと父母とがエジプトを訪ねてきて彼に屈伏した摂理路程の基台の上で、イスラエルのサタン分立のためのエジプト苦役路程が始まった」(351ページ)と説明されています。

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 次回は、「モーセが率いる出エジプト」をお届けします。

画像素材:PIXTA