2021.11.07 17:00
ヤコブ、エサウと和解
岡野 献一
『FAXニュース』で連載した「旧約聖書人物伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
ヤコブは、長子権と祝福を奪ったことで兄エサウから恨まれ、母リベカの故郷ハランへと逃れなければならなくなりました。ヤコブは家督を相続して、アブラハムの信仰の伝統を守りたいという志を抱いていましたが、しかし、それが果たせない状況に追い込まれたのです。
ラバンにだまされた14年間の労働
父母を故郷に残して独りハランへ向かったヤコブは、石を枕にして眠る孤独な夜、神様と出会い「還故郷」の約束を取り交わします。この神様との出会いを心に深く刻み込んだヤコブはやがて一つの井戸へたどり着き、そこでいとこのラケルと劇的な出会いをします。神の導きを感じたヤコブはラケルに口づけし、感極まって声を上げて泣いてしまいました。
伯父ラバンの家に身を寄せたヤコブは「母の兄ラバンの娘を妻にめとりなさい」との父母の言葉(創世記28章2節)に従って、見初めたラケルを妻に欲しいと伯父へ申し出ました。ヤコブはラケルを得るため7年間働くことを約束します。ヤコブはラケルを心から愛し、ハランの地で7年間精誠を尽くして働きました。
約束の7年が過ぎラケルをめとる日がやってきました。ところが妻に迎えたのはラケルではなく、姉のレアでした。ヤコブは伯父ラバンにだまされたのです。約束が違うと食い下がるヤコブに、ラバンは「妹を姉より先に嫁がせることは我々の国ではしない。まずレアと1週間過ごしなさい。そうすればラケルもあげよう。そのためさらに7年働きなさい」と要求してきました。
ラケルにぞっこんだったヤコブは要求を受け入れ、さらに7年間働きました。ユダヤ教のラビは「ヤコブは自分が愛した人のために14年間も一生懸命働いたということで、今なおユダヤ人に大変尊敬されている」と語っています。
さて、本来ならラケルがヤコブの妻になるべきでしたが、姉のレアが先に正妻となったため、ラケルは妾のような立場に甘んじなければならなくなりました。ヤコブがよりラケルを愛するので、正妻であるレアは激しくラケルに嫉妬し、レアとラケルの間でヤコブを巡る激しい愛の争奪戦が起こっていきました。本当はレアは妾のラケルを愛さなくてはならなかったのです。
2人の妻の協力で還故郷が成功
皮肉なことに、ヤコブとラケルの間には子が生まれず、嫌われたレアの方にばかり子が生まれます。レアは子が生まれるたびに「これで夫は私を愛するだろう」と期待しますが、しかしヤコブの心を捕らえることができず、ラケルの方は自分のつかえめビルハに子を生ませてレアへ対抗しようとします。ヤコブはこのような女の争いを収めながら、しかもラバンから10度だまされても腐らずに、黙々と20年間ハランで精誠を尽くしたのです。
よく「ヤコブは悪賢い、嫌な性格」と評する人がいますが、本当にそうなら、なぜヤコブは財を成した後、身の危険を冒してまで故郷へ帰ろうとしたのでしょうか。
ヤコブは「アブラハムの神」を慕い、「親族から妻をめとる」という父母との約束を果たそうと真剣だったからこそ、兄エサウに殺されるかもしれない身の危険を冒してまで故郷に帰ろうとしたのです。ヤコブは神のみ言を信じ、苦境を乗り越えていったのでした。そのように精誠を尽くすヤコブの姿に、やがてレアとラケルは敬愛し、協力し合って命懸けで従うようになります。
故郷カナンへと向かうヤコブ一行に対して、兄エサウが400人を従えて待ち構えていたとき、レアとラケルは逃げ惑うことなく、ヤコブと命運を共にしました。この二人の女性の協助があったからこそヤコブは還故郷および兄エサウとの和解を果たすことができたのです。
文先生は次のように述べています。
「神様が復帰を着手するに当たっては、堕落したエバを完全に復帰して、神様のすべてを相続して、奉仕する立場のエバが立たなければならないのです。…ラケル(妾)が姉の立場で、レア(正妻)が妹の立場で、絶対的に命令に服従していった場合には…ラケルが正妻圏になって、レアが逆に妾の立場に立って慕っていけば、天に帰ることができるのです」(1995.1.19)と。
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次回は、「ユダとタマルで胎中聖別」をお届けします。
画像素材:PIXTA