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アブラハムとイサク

(光言社『FAXニュース』通巻618号[2001年3月10日号]「シリーズ旧約聖書人物伝」より)

岡野 献一

 『FAXニュース』で連載した「旧約聖書人物伝」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。

 ノアから10代の後に、信仰の祖アブラハムが登場します。彼はアダム家庭およびノア家庭における失敗を蕩減復帰しなければならない立場に立っていました。

サタン分立意味する献祭に失敗

 アダムとノアが神の祝福を受けたのと同じように、アブラハムもまた「あなたを大いなる国民とし…名を大きくしよう。あなたは祝福の基となる」という神の祝福を受けました。そして彼は神の命令に服従して、住み慣れた父の家を離れ、カナンの地へ旅立っていきます。

 故郷を捨て、旅人の生活に甘んじるというだけでも大変ですが、さらにアブラハムは飢饉(ききん)の際に寄留したエジプトで妻サラをパロに奪われ、それを取り戻すという試練を通過しなければなりませんでした。

 やがてカナンの地に移り住んでから10年がたとうとしていました。しかし神様から与えられた祝福とは裏腹に、アブラハムにはなかなか跡継ぎとなる子が産まれません。普通の人ならそこで信仰がうせ果て「神様、約束が違う」と言って人生を呪ったことでしょう。しかし彼は不屈の精神で神のみ言を信じ続けたのでした。

 ある日、神様が再びアブラハムに現れ「星を数えなさい…子孫はあのようになるでしょう。わたしはこの地をあなたに与えようと…導き出した主です」と語られました。そしてアブラハムと契約を結ぶために、雌牛・雌やぎ・雄羊・山鳩・家鳩を連れてくるよう命じました。

 古代社会の契約の結び方は、動物を真っ二つに裂き、裂いたものをおのおの向かい合わせて置き、その間を当事者が通って契約を交わすというものでした。「もし違約したらおまえを裂いた動物のようにする」との警告がそこに込められていたといわれます。したがって裂くという行為に重要な意味がありました。

 また、その象徴献祭は堕落によってサタンの侵入を受けた成長期間すなわち蘇生期・長成期・完成期を聖別し、サタン分立を意味していたのです。ところが鳩を裂かなかったため象徴献祭が失敗に終わってしまいました。おそらく小さな鳩だと思って油断していたのでしょう。

 その後、アブラハムは妻サラをアビメレクに奪われ、取り戻すという試練を再び通過しなければなりませんでした。まさにそれはやり直しの路程です。そうした中でやっと待ちに待ったイサクが誕生したのです。年を経て生まれた子は格別にかわいいものです。アブラハムとサラは天から授けられた子として大切に育てました。

▲アブラハムとたきぎを背負うイサク(ギュスターヴ・ドレ画)

愛する子をささげる決意に神様の喜び

 さてイサクが13歳に近づき、分別のつく年になったころのことです。アブラハムは「愛するひとり子イサクを…燔祭(はんさい)としてささげよ」という神の啓示を受けました。それはアブラハムの信仰路程における最大の試練でした。自分の生命よりも大事な息子をささげることは、実に耐え難いことです。イサクを失えば「大いなる国民とする」という神の祝福が根底から覆ることとなり、人生の全てを失ってしまいます。まさしくそれは彼にとって存在の危機を意味していました。しかし彼は黙ってその命令に従ったのです。

 献祭に出発する日、夜も眠れなかったのでしょう、アブラハムは朝早く出発していきました。アブラハムの住むベエルシバからモリヤまでは二日あれば到着できる距離です。そこを三日かかったのは、苦悩し、重い足取りであったことをうかがわせます。特にイサクが「燔祭の小羊はどこですか」と尋ねたとき、心がえぐられるような思いだったでしょう。しかし彼は決心し、遂にイサクをささげようとしました。それは自分自身を裂く行為でもありました。

 ユダヤの伝説では、それを見ていた天使たちが泣きだし、そこで神様が天使長ミカエルに命じて止めに入らせたのだといいます。アブラハムの絶対信仰が天使世界を自然屈伏させ、それによってアブラハム自身に侵入したサタンを分立させることができたのでした。彼は苦しみましたが、実は神様も心を痛めていたのです。「今知った」の言葉には、神様の「どうして象徴献祭を失敗したのか」という叱責(しっせき)と、「よくやった」という喜びの思いが込められていたのです。

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 次回は、「イサクとリベカ」をお届けします。

画像素材:PIXTA