2021.09.24 17:00
青少年事情と教育を考える 173
祖父母が果たしている役割
ナビゲーター:中田 孝誠
今月20日の「敬老の日」に合わせ、総務省が日本の人口推計を発表しました。
それによると、65歳以上の高齢者は3640万人で、前年から22万人増加しました。総人口に占める割合も29.1%と、人数、割合とも過去最高です。人数のうち半数以上が75歳以上でした。
高齢者の割合は日本が世界で最も高く、しかも2位のイタリアが23.6%、3位のポルトガルが23.1%ですから、日本が飛び抜けて高いことが分かります。
今後も高齢化は進み、2040年には65歳以上の割合が35.3%に達すると見られています。
少子化とともに高齢化の急速な進行は、社会構造の大きな変化を迫り、社会保障システムなどに深刻な国家的危機をもたらしています。
一方で、高齢者の長生きは“長寿”として一般的に非常に喜ばれることです。
もちろん国全体の高齢化と一人一人の長寿が持つ意味は違いますが、ここでお話ししたいのは、“人間の寿命は他の霊長類に比べて総じて長い”ということです。しかも単に長いだけでなく、子供を妊娠・出産できる年齢(生殖期間)が過ぎた後の高齢期、老年期が長いことが人間の最大の特徴です。
本連載の第16回(「地方自治体の『祖父母手帳』」)でも紹介しましたが、人類学には「祖母仮説(おばあちゃん仮説)」という説があります。
これはアメリカの人類学者ホークスが提唱したもので、人間は生殖期間が過ぎても20年から30年の高齢期があります。特に女性が閉経後にこれほど長生きするのは、他の霊長類には見られません。
動物の個体では、生殖期間が終われば生命として寿命が終わります。しかし人間の場合は自分の出産や育児を終えた後、子供や孫の出産と子育てを助ける役割を担うために高齢期が長いのではないかと考えられています。
ここに、高齢者、祖父母が果たしてきた大きな役割があるということもできます。これにより、人間だけが「孫」を見ることができ、親族を形成することができるようになったともいわれます。また、祖父母の存在を通して、先祖への意識、生命の歴史的なつながりを意識できるようになったとも言えます。
現在は三世代家族が減少しました(2019年は全世帯の5.1%)。おじいちゃん子、おばあちゃん子も、昔よりは少なくなったでしょう。ただ一方で、現役世代の親が自分の親に子育ての助けを求めて、祖父母が近居するケースも増えています。
国全体で高齢化の進行に対策を講じることは重要な課題ですが、別の見方をすると、次世代育成に大きな役割を担うことができる祖父母が大勢いることに私たちはもっと意識を向けて、家族や親族をもっと意識した生活スタイル、社会体制を考えていくべきではないでしょうか。