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ひまわり

(光言社『グラフ新天地』447号[2005年9月号]より)

作・うのまさし
画・小野塚雅子

 夏のはじめ、ひまわり畑に子犬が捨てられていました。「まあ、かわいい」、アキは子犬を拾い上げ、家で飼ってもらえるように頼んでみようと、家に連れて帰りました。

 「だめだって…でもね、もう夏休みだから、毎日会えるよ。いつもここにいてね。そうだ、名前を付けなくてはね。夏だからサマがいいわ」

 それからアキは、毎日ひまわり畑でサマと楽しいときを過ごしました。

 ひまわりが枯れ、夏が去ろうとしたころ、アキは車にはねられ、救急車で運ばれました。サマは、懸命に車を追いかけましたが、追いつきません。


 その後、サマはアキをひまわり畑で何日も待っていましたが、来ませんでした。サマは、アキからもらうエサもなく、体は弱り、道路にフラフラと出ていきました。そこにサトシのトラックが通りがかり、サマを乗せ、南に向かいました。


 春になり、サトシの家ではすっかり元気になったサマが、サトシの子供たちと遊んでいます。「コロ、早く来い」、「ワンワン」、サマは、コロと呼ばれていました。


 夏が訪れ、サマはひまわりの懐(なつ)かしい香りに包まれました。アキのことが思い出され、ひまわりの香りのするところに走って行きました。「違う、ここじゃない」。アキと遊んだひまわり畑を求め、その香りを頼りに北へ走っていきました。いくつかの畑を見つけましたが、そこではありません。何日か経(た)ち、サトシの家から遠くに来てしまいました。


 「サマ!」。アキの声が聞こえました。そこには、見覚えのあるひまわり畑が広がっています。サマは、アキの元に走っていこうとしました。ところが、サマそっくりの犬が、アキに抱きつきました。サマは足を止め、身を隠しました。


 そこにアキの両親が歩いてきましたが、サマには気づきません。
 「事故からもう1年になるが、アキは運動もできるようになって、よかったな」
 「サマにも元気づけられて……。事故の後、内緒で飼っていることを聞いて驚きましたよ。事故の10日ぐらい後に探しに来たけれども、いませんでしたね。今頃(ごろ)、だれかに飼われているのかもしれませんね。似たような犬に同じ名前をつけて……。よほど気にいってたんですね」

 サマが振り向くと、後ろにサトシが立っていました。「やはり、ここにいたのか。あの子がおまえの前の飼い主か。コロ、会いに行ってもいいんだぞ」。サマは、サトシから離れず、アキの笑顔を心に焼き付けるように見つめていました。