2021.07.19 22:00
招待状
作・うのまさし
画・小野塚雅子
松(まつ)が、しわだらけの手に古ぼけた葉書を握っていました。
「孫娘の舞(まい)から、結婚式の招待状が来たよ。今度の日曜日に結婚するんだって」と、はずんだ声で家族に話しかけました。
「おばあちゃん、よかったね。舞ちゃんの花嫁衣装が見られますね」
「ええ、舞はかわいくて、とても良い娘(こ)なんだよ。久しぶりに会えるよ」
松は、この数年物忘れが激しくなり、4年前に亡くなった舞がまだ生きていると思っていました。
次の日曜日に松は、和服を着て、近くの結婚式場に向かいました。
そこには、式が終わり参列者にあいさつしている花嫁がいました。
「舞ちゃん、きれいだよ」
松は、大声で呼びかけましたが、花嫁は気づかずに去ってしまいました。松は、花嫁の後ろ姿に向かって手を振り続けました。
「あっ、清(きよ)おばあちゃん!」と、花嫁姿の珠恵(たまえ)が振り返りました。
「えっ、8年前に亡くなっているんだぞ、気のせいだよ」と、珠恵の父親が言いました。
松は目頭を熱くして帰ってきました。
「舞の花嫁姿はきれいだったよ」
「おばあちゃん、本当によかったですね」
「舞の嫁ぐのを見届けたんだ。もう思い残すことはない」
その夜、松は静かに息を引き取りました。
霊界に着いた松は、友人の清に会いました。
「松さん、やっと来たね。お待ちしてましたよ」
「ああっ、清さん。お久しぶりですね。孫娘が無事に嫁に行ったんで、こっち(霊界)に来ることにしましたよ」
「何を言っているの。あなたが見たのは、私の孫娘の珠恵ですよ。私といっしょに買ったお揃(そろ)いの和服をあなたが着ていたから、珠恵も間違えたようだけど。私の代わりに、珠恵を見守ってくれて、ありがとうね。あなたの孫娘の舞ちゃんは、あなたよりも一足早くここに来ているわよ。今度、こっちで結婚することになったのよ」
「そうか、招待されたのは、こちらの結婚式だったんだ」
「さあ、舞ちゃん、おばあちゃんにきれいな姿を見せてあげなさい」
奥から、ウエディング姿の舞が出てきました。
「おばあちゃん、来てくれて、ありがとう」
「ああっ、舞、おめでとう」
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「創作童話シリーズ」は今回が最終回です。ご愛読ありがとうございました。