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預言 2
民間機

 アプリで読む光言社書籍シリーズ、「小説『預言』」を毎週火曜日配信(予定)でお届けします。

 1983年9月1日、大韓航空機007便がソ連の戦闘機によって撃墜された。その事件で妹を失った崔智敏は、ソ連への復讐に燃えて立ち上がる。アメリカに渡り、ソ連に入る機会をうかがう智敏。しかし、スパイ容疑で逮捕され、ダンベリー刑務所に入れられてしまう。そこで出会ったもう一人の韓国人。彼はソ連の絶頂期にあって、驚くべき宣言をした。韓国、アメリカ、南米、ヨーロッパ、ソ連……。世界を巡りながら、智敏が目にした歴史の真実とは?

 本書は韓国のベストセラー作家である金辰明氏が、真の父母様が立てられた世界的功績に感銘を受け、執筆した小説の日本語翻訳版です。

金辰明・著

(光言社・小説『預言』より)

2 民間機

 イートン大尉は電話を終えると、独り言のようにつぶやいた。

 「一体何なのだ。偵察機でも輸送機でも爆撃機でもないのなら……ひょっとして民間機か?」

 古参レーダー兵が大尉の言葉に反応した。

 「民間機ではありません。民間機の機長はみな、15年以上の経歴を持つベテランです。しかも民間機はすべて慣性航法装置を利用して飛ぶので、ソ連領空に入る可能性はまさしくゼロです」

 イートンはうなずいた。しかし次の瞬間、彼は先ほどからずっと頭の中を渦巻いていた考えを一気に吐き出した。

 「気が狂ったとしたら?」

 「えっ?」

 「民間機のパイロットが狂ったとしたら? もしくはパイロットがソ連のスパイだったら? いや、テロリストが飛行機を支配していたら?」

 「……」

 イートン大尉の口から飛び出した非常識な単語に、二人のレーダー兵は互いに視線を交わし合い、気まずい表情を浮かべるだけだったが、イートン大尉は犯行の証拠をつかんだ捜査官のごとく、追及するかのように尋ねた。
 「あの飛行機が、アラスカ上空を通りすぎた時刻は何時頃だ?」

 「現在あの飛行機は、時速900キロで飛んでいます。同じ速度で飛行していたなら、昨晩10時頃にアラスカ上空を通過したと考えられます」

 「それなら早く、アンカレッジ空港の管制塔に聞いてみるんだ。その時間にアンカレッジ管制域を通過した民間機があるのかどうか」

 「了解しました」

 古参レーダー兵はイートン大尉にも聞こえるように、電話機のスピーカーをオンにした。

 「アンカレッジ空港管制塔、応答せよ、こちらポスト・グッドウィル」

 レーダー兵が二、三度呼びかけると、受話器の向こうからの声がスピーカーを通してレーダー室に響いた。

 「こちら、アンカレッジ、どうぞ」

 「昨晩10時前後にそちらの管制域を通過した民間航空機はあるか?」

 「なぜそれを聞くのか?」

 「こちらはポスト・グッドウィル。NORAD(ノーラッド)傘下の観測基地である。現在アラスカ方向から飛んで来た正体不明の飛行体を追跡中。そちらで管制した民間機なのか確認してもらいたい」

 NORAD傘下の観測基地という言葉に、気が緩んでいた管制官は突如、緊張した気配を見せた。

 「昨晩9時58分と10時3分、当管制塔にて2機の飛行機を管制している。1機は大韓航空の旅客機でフライトナンバーはKE007。もう1機もやはり何の偶然か、大韓航空だ。フライトナンバーはKE015だ」

 イートン大尉は管制官が読み上げるとおりに紙に書き取った。

 「この航空機の到着地はどこだ?」

 「ソウル。2機とも韓国のソウル金浦(キムポ)が目的地だ」

 「彼らと交信は可能か?」

 「今なら、おそらく東京の管制センターと交信可能だろう」

 「オーケー」

 レーダー兵が東京の管制センターに急いでつなぐと、イートンはレーダー兵から受話器を奪い取った。

 「東京管制、こちらはポスト・グッドウィル。アメリカ空軍のレーダー基地だが、現在、飛行している不審な航空機を確認中。協力願いたい」

 「こちらは何をすればいい?」

 「アラスカ上空を通過した韓国の民間機だが、彼らと交信可能だろうか?」

 「フライトナンバーは?」

 イートン大尉がフライトナンバーを伝えると、東京の管制センターからすぐに応答があった。

 「大韓航空015便と交信完了。定位置を飛行中であり、問題なし」

 「007便は?」

 「何度も試みてはいるが、交信できない」

 「緊急事態だ。続けて交信してほしい」

 しかし、東京の管制センターからは交信に失敗し続けているという応答があるだけだった。
 その時イートン大尉は、ポスト・グッドウィルも交信可能な位置にあるという事実に気づき、声を上げた。
 「使用周波数を教えてくれ。こちらでやってみる」

 イートン大尉は周波数を聞くと、顔を上げ、視線をレーダーに向けた。

 カムチャツカのソ連領空に入り、少しずつ動いていた点は、今や深々と、完全にソ連領空を侵犯しつつ、こちらの事情など知らぬかのように飛行していた。

 「なんてこった!」

 「オー・マイ・ゴッド!」

 二人のレーダー兵の口からも、同時に驚愕(きょうがく)に満ちた声が漏れた。

 イートン大尉は無線機を持ち、大韓航空007便を呼び出そうとしてはっとした。

 許可なしに軍用機を除く民間機などと交信してはならないとの規定があり、この規定を破れば、スパイの嫌疑をかけられるためである。

 イートン大尉は急いでキャンプ・デナリと連結されたホットラインのスイッチをオンにした。

 「デナリ、非常事態だ。こちらグッドウィル!」

 「どうぞ」

 「非常事態だ。現在、ソ連領空、北緯54度、東経160度地点を飛んでいる航空機は大韓航空機と推測される。繰り返す。アラスカからソウルに向かう韓国の民間機が航路を逸脱し、ソ連領空を侵犯した」

 「待機せよ! 統制官につなぐ」

 待っていたかのようにすぐさま統制官が出ると、イートン大尉は一気にまくし立てた。

 「現在、大韓航空の旅客機が、カムチャツカのソ連領空を侵犯して飛行中です。繰り返します。大韓航空機がソ連領空を侵犯し、一級危険区域に近づいています。東京の管制センターでは交信不能のため、こちらから知らせなければなりません」

 イートン大尉の言う一級危険区域とは、カムチャツカ海岸の大陸間弾道核潜水艦基地と、そこから西に約200キロ離れた不審区域のことで、既に60年代からU2機をはじめ、イーグル・アイ、人工衛星などを通して絶え間なく偵察活動を展開している区域だった。

 最近になって米軍の偵察活動の主力が、この特別区域に何があるのかを調べようと躍起になってはいたが、世界で一番高く飛ぶU2偵察機が超高空で撮影中に撃墜されて以来、米軍のイーグル・アイは、用心深く領海と公海の境界線に沿って偵察する程度がやっとであった。

 「韓国の飛行機であるというのは確実か?」

 「間違いありません」

 「アメリカ国籍の飛行機でないのは確かか、という意味だ」

 「確かです。間違いなく合衆国の飛行機ではありません」

 「待機していろ!」

 統制官は間もなく無線に出た。

 「飛行中のアメリカ国籍機とすべて交信を完了した。確かに、それは我々の飛行機ではない」

 イートン大尉はいらだっていた。

 1秒でも惜しい事態にもかかわらず、飛行機の国籍にこだわる統制官の言動が嘆かわしかったが、ひたすら耐え、力を込めてもう一度進言した。

 「間違いなく、韓国の航空機です」

 「分かっている、貴官は黙って見ていろ」

 「は?」

 イートン大尉は自分の耳を疑った。黙って見ていろだと?

 「貴官はポスト・グッドウィルの存在が世に知られてはならんことも知らんのか! その口をしっかり閉じて、極秘事項を守るように」
 「は、しかし……」

 「軽々しい行動は慎み、ただ監視していろということだ。イートン大尉と言ったかな?」

 「はい」

 「シェイドン中佐だ。この時間以降、デナリ以外のいかなる場所とも通信してはならない」

 「あの民間機に大至急、知らせなければならないのではありませんか?」

 「放っておけ! 我々に民間機の管制権があるわけではないだろう。ならば告知義務もない。繰り返すが、この時間以降、デナリ以外の場所とは一切交信するな」

 「なぜですか! あれは旅客機です。数百人もの民間人が乗っている旅客機が、この世界で一番危険な地域を飛行しているんですよ?」

 「イートン! 命令に背けば、即刻軍法会議にかけられる。分かったか!」

 「しかし……」

 「貴官が外部に電話すれば、秘密軍事施設であるポスト・グッドウィルの存在が直ちに明らかになる。したがって、貴官はスパイ罪で重罰だ。肝に銘じておけ!」

 シェイドン中佐は機関銃のようにまくし立てると、通信を切ってしまった。

 「な、何だと?」

 イートン大尉は電話機を手に握ったまま、呆然(ぼうぜん)とモニターに目をやり、つぶやいた。

 「軍法会議だと?」

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 次回(3月9日)は、「オシポーヴィチ」をお届けします。


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