夫婦愛を育む 147
「おっしゃるとおりです」

ナビゲーター:橘 幸世

 送られてきたお役所関係の書類に記入しようとしたところ、その分かりづらさ、ややこしさに閉口しました。

 わが家の事務関係を一手に担っている私は、基本この手の作業は苦手ではありません。でも今回ばかりはその煩雑さ、記入説明書の不親切さに捨て置きたくなるほど。

 確認のため担当事務所に問い合わせの電話をかけました。誤りや不足があって二度手間になるのは避けたかったのです。

 電話に対応してくれた女性職員に「同じ添付書類がいろいろな項目で何度も繰り返し出てきて混乱します」と言うと、「おっしゃるとおりです」と返ってきました。

 「記入説明書が分かりづらいです」には、「そうですね。分かりづらくて申し訳ありません」。

 会話を続けながら、その対応に内心私は驚いていました。
 市役所は20数年前の市長さんが対応の改善・向上を指導した結果、職員の対応はとても感じが良くなっていますが、同事務所の対応には前回あまりいい印象を受けていませんでした。

 ところが今回、口調は落ち着いていたとはいえ不満を漏らした私に対して、全面受容しつつ、必要な説明は的確にしてくれました。

 「提出期限が分かりません」と言うと、「送付の手紙に書いてはあるのですが、字が小さくて目に留まりづらかったかもしれません」と、こちらの不注意をとがめることなく先方の非として、提出時期を教えてくれました。

 最後は、疑問が解けスッキリした私が「教えてくださってありがとうございました」と言って会話を終えました(その言葉に心なしか先方の声もうれしそうでした)。

 その職員さんは対応の仕方をセミナーか何かで勉強したのではと感じました。
 仮に、記入説明書が分かりづらいと実際彼女自身も思っていたにしても、「おっしゃるとおりです」は簡単に出てこないと思うからです。

 良い人間関係を築く重要ポイントの一つ「相手を受け入れる」ことの実践に際して、相手が自分と異なる意見や否定的なことを言ってきても、決して否定せず「ああ、あなたはそう思うのね」と受け止めましょう、と言われますし、私も言ってきました。

 その指導にのっとれば、私が書類の煩雑さを嘆いたのに対して「そうでしたか」「分かりづらかったですか」くらいに答えるところですが、彼女はさらに一歩踏み込んで、「おっしゃるとおりです」と肯定したのです。

 もうちょっと何とかしてほしい、混乱する人がきっとたくさんいるだろうとの思いを(言葉にこそしませんでしたが)抱きつつかけた電話に、全面的に受け入れるスタンスで対応してくれた職員さん。

 こう対応されるとこんな気持ちになるのか、と実地で良い勉強をさせてもらいました。
 と同時に、長年の不満をぶつけてきた夫に対して「そうね、そうね。あなたの言うとおりよ」と、妻が反論することなく受け止めきって、関係を修復した体験談を思い出しました。


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