2020.12.25 17:00
映画で学ぶ統一原理 15
(この記事は、『世界家庭』2019年7月号に掲載されたものです)
ナビゲーター:渡邊一喜
『何者』
2016年。97分
就活をする若者のSNS発信、心理描写を通して現代人の無意識に近い内面の闇を見事にえぐる
原作者の朝井リョウは、同名小説で第148回直木賞を受賞。平成生まれでは初めての同賞受賞者として注目を浴びた。
この小説の題材は「就活」である。男女5人の、就活の中で変化していく関係性を通じて、現代人の無意識に近い内面の闇を見事にえぐった作品になっている。2016年、三浦大輔監督、佐藤健主演で映画化された。
主人公は就活2年目の二宮拓人(佐藤健)。社会学部出身で、学生時代は演劇サークルに所属、特技は人間分析である。就活は思うように進まないが、その中での気づきをSNSに投稿することを日課としている。彼は気の合う就活仲間たちと、アパートの部屋で情報を交換しながら、内定獲得に向けて日々励んでいた。
そんな中、就活仲間の一人に内定が出る。「おめでとう」という言葉とは裏腹に、噴き出す焦りと嫉妬は彼らの関係性を静かにゆがませていく。そして拓人は、より暗い自意識に内面が覆われていくが、ある出来事をきっかけにその内面と向き合うことになる。
この作品のSNSを巧みに使った演出は、現代人のコミュニケーションをそのままに表現しており、同世代の若者であるほど他人事とは思えないリアリティーがある。
SNSという媒体は、その匿名性ゆえ、そして発信先が限定されていないがゆえに、扱う人間の人格を、時に現実以上に鋭く浮き彫りにする。
現実の生活では、就活に励みながら友人と助け合い励まし合う拓人だが、匿名のSNS上では彼らの必死さを笑い、自分だけは振り回されず、自律的に生きているつもりでいる。
就活という競争原理が、本来の自分の価値を見えなくさせ、SNSという媒体が堕落性をより顕在化させるのだ。そういう意味で、現代は過去にないほど、自己または他者の堕落性がさらされている時代である。
堕落性を吐き出すことで承認欲求を満たしていくという、暗い自己実現に落ち込む拓人だったが、彼が本当の自分を見つけられたのは、変わらずに彼を肯定し続ける一人の友人によってだった。
結局、自分で自分を承認し続けることはできない。さらに会社から内定をもらうことが承認の本質でもないのだ。やはり、天の父母様(神様)、真の父母様との関係に、自己承認をめぐる堕落性のジレンマに対する解決の道があることを確信する。
「堕落性と現代」を考えるうえで、深い示唆を与えてくれる作品である。
(『世界家庭』2019年7月号より)
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