子育て道しるべ 10
高校生期(男子)

(APTF『真の家庭』156号[10月]より)

座間保裕

母性喪失による弊害

 戦後の誤った男女平等観から、家庭において父親が主体で母親が対象であるという秩序が崩れ、多くの弊害が出ています。「めんどりが鳴くとその家は滅ぶ」と諺にあるように、家庭で母親が強すぎ、父親が弱すぎる場合は、明らかに子供に影響が出てきます。そのような家の男子は、優しい男にはなっても、逞しい男にはなれません。また、女子は野人のごとくなり、自分のことを「僕」「オレ」などと言い始めます。この秩序逆転の家庭倫理は、その中で育まれる子女を男らしく、女らしく育むことを阻害し、そのような社会で生きる青少年に多大な悪影響を与えています。寒心に堪えません。

父性の喪失

 ところで、母性の喪失は、父性の喪失と相関関係があります。女性が一方的に悪いわけではありません。男性がしっかりしないからいけないのです。日本は敗戦により戦前の価値観を全く否定し、新しい価値観に昇華するわけでもなく、無価値状態、人間で言えば背骨の無い人間になってしまいました。父性とは、価値観、善悪や秩序を示し、逆境にあっては克服する強さを発揮します。社会全体が父性を喪失しているわけですから、人の道を説くべき学校や人倫道徳を身につける家庭にも誤った価値観が蔓延(まんえん)しています。そのような環境の中で、男の中の男を育むなど、夢のまた夢になってしまいます。

ビジョン教育

 したがって、一国の主権者、組織の長たる者は家庭と国家に対するビジョンを示さなければなりません。思春期を迎えている中高生の時期に身に付けたことは、人生の78割方を決定するというのに、若い青少年たちにビジョンを示さないことは国家100年を失うことになります。中高生に津波のごとく押し寄せる、不倫の文化、個人主義・拝金主義、刹那的快楽主義は津波以上の国難です。「青年よ大志を抱け」「若き日に汝の造り主を知れ」とは言われますが、今の時は家庭再建、国家再建のビジョンなくして若者を奮い立たせることはできません。

男子教育は天職教育

 高校生女子は前稿で申し上げた通り、家庭再建のビジョンを持って女性復権、妻復権、母復権を成すべきですが、高校生男子たるもの国家再建に向けて、世のため人のためになる職業を究め天職とすることを旨とすべきなのです。父性復権のためにも天からいただいた天稟(てんぴん)を磨き天職とすることを通してこそ、男の本懐を遂げることになります。男の幸せは生涯完全投入できる天職を持つことにあり、女の幸せはそのような夫を支え、その夫との間に産まれた子女を養育することにあると思うのです。

天職教育の道

 それでは、実際に今の男子高校生がいかにしたら見事に天職をつかむことができるでしょうか。それはより大きなビジョンを持つことからしかないのです。マックス・ウェーバー著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』には、まさにそのヒントが書いてあります。今日の資本主義の発展はカルビンの天職観が強烈に働いていたのです、すなわち、自分の仕事を通して神の栄光を顕現させ、富という神の恩恵を受けるというものでした。その崇高な精神が堕落している今日、日本に震災の教訓が示されました。復興にかける多くの若者の無私の奉仕が人々の心に希望を与え、奉仕する者も生きがいを発見しています。神と人類のために奉仕する前に、隣人一人のために奉仕する心が、やがて世界に通じることでしょう。最も感受性の強い思春期の中高生、特に高校男子生徒に期待しています。