愛の知恵袋 140
夫に話を聞いてもらう秘訣

(APTF『真の家庭』261号[2020年7月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

話しかけても気のない返事ばかりの夫

 既婚の婦人対象に講演をした後の懇談会で、ある40代の婦人が言いました。「夫婦の対話がとても大事だと思うんですけど、うちでは全然対話にならないんです。先日も、久しぶりに夫が早く帰って来て居間でくつろいでいたので、話しかけたんです。子供のことや実家のことなど話そうとしているのに、何を言っても夫は、『ふーん』『ああ、そう…』と、気のない返事ばかり。私もさすがに腹が立って、『あなた聞いてるの?』と言うと、チラッとこらちを見て『ああ、聞いてるよ』と言う。でも、またテレビを見ていて、本気で聞いていないのがありあり。もう、がっかりして話すこともやめました」。

 すると、他の婦人たちも口々に、「似てる!」「うちも同じ!」「どうして妻の話をもっと真剣に聞けないのかしらね!」と不満が続出。「男って、鈍感なのよ」「結局、妻に関心がないからじゃないの?」「関心がないってことは…愛情がないってことじゃない?」と議論が白熱していきました。

家でボーっとしている夫は、馬鹿なのか?

 結論から言うと、夫が無神経な人間というわけではなく、愛情の冷めきった冷凍人間なのでもありません。日常生活の中でこういう状況が生じるのには、いくつかの理由があります。

 まず、第一は、働き盛りの男性においては、日常の関心と意識の90パーセントは仕事にあり、そのことで頭が一杯だということです。特に責任世代の男性は、片時も仕事のことが頭から離れません。家にいる時でさえ、ボーっと遠くを見ているような時は、大概仕事のことを思い出しているのです。

 男は職場では敏感にアンテナを張ってピリピリしています。目標やノルマに追われるなか、上司や顧客の顏色をうかがいながら、失敗をしないように、実績を出すように必死で働いています。そのストレスは半端ではありません。

 そんな戦場からやっと解放されて家にいる時の夫は、脱力状態でぼんやりしているか、あるいは、ストレス解消と気分転換のためにテレビを見たり、パソコンをいじったりしています。いかつい顔をした男でも、家庭では妻の包容力に甘えて、地をさらけ出してくつろぎたいのです。

 そんな時の夫は、「見てはいてもぼんやりと」、「聞いてはいてもなんとなく」なのです。

 ですから、妻から話しかけられても、「うん」とか「ああ」しか出てきません。その上、妻が何かを頼んでも「アッ、忘れてた」というようなことばかりなので、家庭を土俵として生きている妻から見ると、夫はいい加減で、だらしない、頭の悪い人間に見えてきます。

 だからといって勘違いしてはいけません。夫は職場や世間でもそんなルーズな態度をとっているわけではありません。ただ、疲れている時は「家に帰ってまであまり面倒なことに気を使いたくない」というのが正直な所かもしれません。世の奥様方、どうか、ぼんやり君に愛の手を!

そんな夫に話を聞いてもらう秘訣

 夫が妻の話に乗りにくい第二の原因は、女性と男性では、関心事が全く違うので妻の話に乗って行きにくいということです。さらに、それだけではなく、会話の動機や目的が大きく違っているということもあります。脳科学的に見ると、女性脳が「共感」を求めて動くのに対して、男性脳は「問題解決」を求めて動くようになっているそうです。

 そのため、男性は解決を必要とする具体性のある話でないとあまり反応しません。「かくかくしかじかで…こまっちゃった、しんどかった、がっかりした、楽しかった、面白くなかった…」等々の感覚的な話をされても、男性の「本気モード」にスイッチが入らないのです。

 女性が話す動機は、「共感してほしいから」あるいは「相手といい関係を保ちたいから」という場合が多く、話の内容云々よりも「話すこと自体」に意味があると考えています。

 ところが、男性は「用件があるから話す」「相手を説得するために話す」というのが大半です。そのため、彼らは「論理的でない」「内容がない」「回りくどい」話をすると馬鹿にされてしまうという世界に生きています。この男女の違いを理解していないと、夫婦は話がかみ合いません。

 では、そんな「男性脳」をもった夫に話を聞いてもらいたいときは、どうすればいいのかというと、ズバリ、“用件を先に言うこと”です。

 「ねえ、娘のことでちょっと相談に乗ってほしいことがあるんだけど」

 「ね、あなた、今度のお盆、帰省するかどうかを相談したいんだけど」

 「ねえ、お父さん、息子の進路のことで、あなたの意見を聞いておきたいんだけど」

 「今日はね、私、ちょっと聞いてほしい愚痴があるんだけど、いい?」

 こういう風に声をかければ、大概の男性はこっちを向いて、「ん? どうしたの」とか、「ああいいよ、どういうこと?」と言って、こちらにアンテナを向けて話を聞いてくれるはずです。

オリジナルサイトで読む