2020.10.09 22:00
愛の知恵袋 138
我慢することの教え方
松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)
言い出したら聞かない子、お手上げのママ
育児に奮闘中の若いお母さんから相談がありました。
「うちの子は何か欲しいものがあると、すぐに与えないと大変なんです」
「お子さんは、みんなそうですよ」
「それは私もわかっていますが、うちの子は度が過ぎているんじゃないかと思うんです。つい最近も、テレビで見たおもちゃが欲しいと言い出したんです。『すぐには無理だよ』と言っても聞かないし、『ちょっと、我慢して』といくら言っても延々と駄々をこね続けるんです。あんまりわがままを言い続けるので、つい、怒鳴りつけてしまいました」
光景が目に浮かぶようです。子育ての経験がある人なら、誰でも思い当たるはずです。
子供は「我慢」ということが苦手です。いったん欲求に火がついて駄々をこねだした子供に対しては、誰でもお手上げです。
「わが子はかわいいし、願いは何でもかなえてやりたいという気持ちは変わりません。でも、甘やかしすぎて、社会に出ても通用しないようなわがまま人間にはなってほしくないんです。子供に我慢を教えるには、どうしたらいいんでしょうか…」という質問でした。
“愛情”というものは、なかなか難しいものです。可愛がり過ぎてもダメ、厳しくし過ぎてもダメ。その匙加減が実に難しいものです。とはいえ、子どもも一定の年齢になれば、「我慢することを覚える」ことが重要です。学校生活や社会生活において基礎的な能力になるからです。
我慢=「楽しみにして待つこと」を教える
私はこのお母さんには、鈴木昭平先生の提唱する方法を紹介しました。鈴木先生は、「すずき式速読法」の発案者で企業の人材育成事業に携わると共に、「エジソン・アインシュタイン・クラブ」の代表として、長年、知的障がい児の教育と才能開発に取り組んでこられた方です。
まず初めに、子供が興味を引きそうなおもちゃなどを用意します。それを目の前に見せて、「欲しい?」と聞きます。子供が欲しいという意思を示したら、「あげるから、ちょっと待っててね」と言って、3つ数えます。「1、2、3」と手をたたきながら数えたら「はい、どうぞ」と言ってあげます。そして、「よく、待てたね!」と言ってほめてあげます。
少し経ったら「はい、1回返して」と言って返してもらいます(無理に取り上げるのはダメ)。そして、今度は5つ数えてから「はい、どうぞ」と言って渡します。待つことができたら、「わあ、待てた、待てた!」と言って思いっきりほめてあげます。これを5から10まで、状況によっては20まで続けます。
これは「楽しく待つ」ことを覚えさせる学習です。「待てば、おもちゃがもらえる」「待っていれば、何か良いことがある」「待てば、お母さんがすごく喜んでくれる」と感じれば、子供はワクワクして待つことができるのです。
お母さんのニコニコ笑顔は、「待つ」という脳の神経回路の形成をより助けてくれるそうです。ですから、日常の様々な場面で、子供が少しでも我慢ができたり、静かに待つことができたら、「えらいね。我慢強くなってきたね!」と言って笑顔でほめてあげるのです。このお母さんの「言葉かけ」が大切で、1カ月、2カ月と続けていくと、変化が現れるそうです。これを続けるうちに、子供は「待つ」ことができるようになり、落ち着きが出てきます。この「落ち着き」こそが社会への適応力になっていくのです。
子供に「信頼」と「夢」をあたえる
炊事中に「この箱、開けて!」とか「あのお菓子を買って!」と言って来た時、「ちょっと待ってね」「明日お買い物に行ったらね」と言って、それを待てるようになれば大きな前進です。
しかし、ここで大事なことがあります。「待ってね」と言って子供に我慢させたら、その約束は必ず守ってあげることです。それが子供との信頼関係になります。万一、忘れてしまったり、何らかの事情でできなかったときは、あとで必ず「ごめんね」と言って謝りましょう。
ところで、「おもちゃを買ってあげてもすぐに飽きてしまう」というのは、そのおもちゃに対する「夢」や「愛着」が足りないからです。簡単に手に入ったものは、飽きるのも早いのです。子供が「おもちゃが欲しい」と言っても、すぐに買い与えるのではなく、「では、いついつ買いましょうね」と言って先延ばしにします(例えば、誕生日とか、子どもの日、お盆、クリスマス、お正月など記念日にするのも良いでしょう)。そして、その日が来るまでの間、毎日、そのおもちゃの夢を親子で語り合うのです。「どうやって遊ぼうか」「どこで遊ぼうか」等です。
そのようにして、待ったうえでやっと手にいれたおもちゃには強い愛着がわきます。
「〇〇遊園地に行きたい」という場合でも同じです。「春休みに」とか「次の連休に」とか決めて約束します。そして、その日まで、「誰と行こうか」「お弁当は何にしようか」「何と何を準備していこうか」など親子で楽しく話し合うのです。遊園地に行く日まで、ワクワクしながら待つ間に、たくさんの夢を見ることができます。
参考文献:『子どもの脳にいいこと』鈴木昭平著、コスモトゥーワン発行