2020.09.04 22:00
愛の知恵袋 133
心の枠を取り払って
松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)
思い通りにならない息子を見てイライラする
中学生の息子を持つお母さんから相談を受けました。
「うちの子は、『大学受験に追われるような高校生活をしたくない。大学の付属高校の受験に挑戦する』というので、いい高校に行かせてやりたいと思って塾にも行かせ、息子が家にいる時間帯は必ず家にいて世話をしてやるようにしました。2年生になってから、『指導の先生と合わない。勉強に集中したいので部活をやめたい』と言うので、その通りにさせました。
しかし、その後、『この学校は肌に合わない』とか『担任の先生が嫌だ』とか言うようになり、『疲れた!』と言っては学校や塾を休んだりすることが増えました。3年生になって、いったんは調子を取り戻して成績も上がったんですが、これからが追い込みという夏になって、また勉強をしなくなりました。最近の模擬試験の結果がひどく悪かったので、『今の志望校は到底無理だよ。志望校を変えないと』と言うと反発し、『気分転換!』と言ってはゲームばかりしているんです。受験する学校を選ぶために学校見学に行こうと言っても、ドタキャンしたりして、全く何を考えているのか分かりません。彼の行動を見ていると、イライラするし、怒鳴りたくなってしまいます。なんでこんな子になってしまったのか、本当に情けなくなります」
我が子の将来に期待を寄せていただけに、勉強に集中できない子供を見るとイライラし、怒りにも似た感情が抑えきれなくなるというのです。
思春期は自分探しの旅人
母親の話を聞いた限りでは、結局、彼は目標がはっきりしていないので集中できないのだろうと思いました。自分は将来何をやりたいのか。そのこと自体が見いだせずにいるのです。
この分野のこんな仕事がしたいという目標ができれば、どの大学の何学科を目指し、そのためにはどの高校の何コースに行けばよい…というふうに道がおのずと見えてきます。しかし、そのような「夢」「目標」が見つからないうちは、常に、モヤモヤの中にあります。思春期はまさに〝自分探しの旅人〟です。様々な経験や情報に触れながら、自分の能力や個性に合った道、自分が意欲を持てる道を探している旅人なのです。人と自分を比べて、優越感に浸ったり劣等感にさいなまれたりしながら、試行錯誤を繰り返し、自分の道を探している迷い人です。だから、自分がもどかしく、心も不安定でイライラしていることが多いのです。そんな時、ああしろ、こうしろと干渉されると、爆発してしまいます。
高校生になれば、大方の自分の適性と方向が見えてきますが、中学生の段階で、それらが見つかっている人はそう多くはありません。
思春期の子供には、過干渉は禁物です。親は一歩後ろに下がって、手を後ろに組んで、じっと見守ってあげるのです。そして、彼らの「自分探しに必要な材料」を提供したり、「良き相談相手」になってあげるという形が最も望ましい接し方です。
「心の枠」を持つと、子供は「ダメな子」に見える
もう一つ大事なことがあります。私達、親というものは、ともすると欲目が出て、いい学校へ入れて、いい所に就職させれば手堅く幸せになれる…と考えて、そのコースに子供を当てはめていかせようとすることがあります。そのためには「こうでなければならない」という「枠」をつくって、それに合わせようとするのです。
そうすると、早起きするべき、運動するべき、勉強するべき、あの学校へ行くべき、欠席するな、いい点とるべき…と、子供に期待し、要求してしまいます。
このような「べき論」で追及されると、子供は非常に苦しむことになります。
また、「べき論」で見てしまうと、そうなれない子供は「ダメな子」に見えてしまいます。
つまり、親が「心の枠」をもって、それに当てはめようとすると、その枠にはまらない子供は「悪い子」に見えるのです。その結果、天が与えたその子の「良き本性」が見えなくなってしまいます。
「親が考える幸せコース」がその子の本性に合わない場合は、その枠にはめようとすればするほど、子供は葛藤します。幼少期には親の言う通りに従いますが、成長するにしたがって反発するようになります。そうすると、親と子の間に衝突が起こり、親もまた葛藤することになります。
たとえ親子であっても、天が与えた子供の個性や能力や性格や運命は一人ひとり全く違うので、親の考える「枠」には当てはまらない場合があるのです。
もし、そのような葛藤が起きたら、親は「心の枠」をいったん横に置いて、空のような広い心で子供を信じ、受け入れ、愛して、まずは、親子の信頼関係を結ぶことを優先しましょう。
そして、子供が何を考え、何を悩んでいるのか…わかってあげましょう。
そうすると、思いもかけない我が子の優しさや純粋さ、心に秘めた夢など、素晴らしい宝物が見えてきます。そうして、親との信頼関係ができると、子供は前に向かって歩みだします。