https://www.kogensha.jp

氏族伝道の心理学 14
エバとアベルの責任

 光言社書籍シリーズで好評だった『氏族伝道の心理学』を再配信でお届けします。
 臨床心理士の大知勇治氏が、心理学の観点から氏族伝道を解き明かします。

大知 勇治・著

(光言社・刊『成約時代の牧会カウンセリング 氏族伝道の心理学』より)

第2章 心の問題と復帰歴史

エバとアベルの責任
 ここで、もう少し、この物語について考えてみましょう。カインのアベル殺しについて、お父様も大母様も、エバやアベルにも責任があるとおっしゃいます。エバやアベルの責任とはどういうことなのでしょうか。

 まず、誰が供え物をしに行ったかということです。

 家族が全員で行ったのでしょうか。それは考え難いように思います。もし、家族が全員で行ったのならば、父親であるアダムが供え物をするはずだからです。カインとアベル以外にも家族がいたとしたら、代表者が供え物をする可能性が高いでしょうから、この場合、カインとアベルが二人で行って、それぞれが供え物をしたのでしょう。だとしたら、弟の供え物だけ取られて、兄の供え物は取られなかったことを他の家族は知らないということになります。

 カインは、自分の供え物が取られずに、とても傷ついていたでしょうから、きっとそのことは誰にも言いたくなかったに違いありません。もし、アベルが、兄のそうした心情を察して、自分の供え物だけが取られたことを誰にも言わなかったら、アベルは殺されることはなかったのではないかと思います。でも、多分アベルは、他の家族に言ってしまったのだと思います。「きょうカインと二人で神様に供え物をしに行ったけれど、神様は、カインの供え物は取られずに、僕の供え物だけを取ってくださった!」。

 もし、この時に、お母さんのエバが、長男カインの顔色を見てその気持ちを察して、次のようにアベルをたしなめていたら、兄は弟を殺さなかったと思います。「アベル、そんなことを言うものではありません。お兄ちゃんの気持ちも考えなさい!」と。でも、きっと母は、カインに対して、こう言ってしまったのでしょう。「ほら、みなさい。あなたはいつもそんなふうだから、神様も供え物を取ってくださらないのよ。少しは反省しなさい!」。

 そうしたやり取りの中で、カインの孤独感は徐々に深まり、怒りが大きくなっていき、結果、兄弟殺しとなってしまったのです。

 カインがアベルを殺した時、カッとなって逆上して殺したわけではないでしょう。おそらく、カインは、アベルをどのように殺すのか、いろいろ考えたに違いありません。当時は、銃も剣もなかった頃です。せいぜい、木の枝か、石ぐらいしかありません。他の家族から見えず、大きな声を出しても聞こえない所に連れ出して、よそを向いている隙に、後ろから大きな石で一撃を加えて大きなダメージを与え……。そのように計画を立てて、準備して、タイミングを見計らっていたことでしょう。

 殺害への迷いやためらいもあったはずです。ですから、神様はカインに対して、「なぜあなたは憤るのですか、なぜ顔を伏せるのですか。正しい事をしているのでしたら、顔をあげたらよいでしょう。もし正しい事をしていないのでしたら、罪が門口に待ち伏せています。それはあなたを慕い求めますが、あなたはそれを治めなければなりません」という警告を与える余裕があったのです。

 供え物をしてから殺害までの間、カインは何を考え、どのように過ごしていたのでしょうか。家族がカインの心情を思って、カインを慰め、いたわっていたならば、カインはアベルを殺さなかったでしょう。エバとアベルの責任とは、カインの心情を理解し、その心情を癒やしてあげることだったのでしょう。その責任を果たせなかったため、アダム家庭の復帰摂理は失敗し、アダム家庭全体が、サタンの主管下に置かれることになってしまったのです。

 特に重要なのは、親の態度です。兄弟の葛藤の背景には、必ずと言ってよいほど、親の養育態度の問題があります。アダムとエバは、父として母として、どのようにカインに接していたのでしょうか。このとき、両親がもっとカインの立場を理解し、気持ちに寄り添った対応をしてあげていたら、事件は違った展開になっていたでしょう。

 いずれにせよ、(堕落によって)アダム家庭の中でカインは孤立し、怒りを収めることができず、アベルを殺してしまいました。そして、人類がサタンの血統に入ることが決定的になりました。私たちは、その血統の末裔です。堕落によって生じた原罪は、血統を通して現代の私たちまで受け継がれてきているわけです。さらにアダム家庭の中にあった不安と怒りは、代々の親子関係を通して生育環境の繰り返し、つまり家庭文化の伝達という形で、現代の私たちの家庭にまで受け継がれてきているのです。私の中の不安と怒りは、まさに堕落の時にルーシェルが感じた不安と怒りと同じものであり、私たちの家庭の中にある不安と怒りは、アダム家庭の中にあった不安と怒りと同じものであり、私自身の先祖たちが感じてきた不安と怒りと同じものと言えるのです。

 このように考えると、「私たちの心の中や家庭にある問題は、私たちの先祖が、同じように苦しみながら解決することができなかった歴史的な問題である」という視点で見ていくことが大切です。そして、それを解決していくということは、先祖たちが解決できなかった歴史的な問題を代表して解決していくこと、つまり血統を代表して解決していくことを意味しています。このことを常に認識しておく必要があるでしょう。

 縦的に積み重なってきている問題が、横的に展開して現在の家庭の問題となっているということです。それゆえに、その解決方法は、現時点だけを見て解決するのではなく、縦的な問題として、縦的な視点に立った、縦的な方法で解決していく必要があるという結論が出てきます。

---

 次回は「縦的な解決方法」をお届けします。


◆『成約時代の牧会カウンセリング 氏族伝道の心理学』を書籍でご覧になりたいかたはコチラ