2020.08.04 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
民主派躍進恐れ、香港立法会選挙一年延期
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は7月27日から8月2日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
金正恩氏、「核で永遠に国守る」~休戦67周年(7月27日)。ニュージーランド、香港との犯罪人引き渡し条約を停止(28日)。香港、国安法(国家安全維持法)で活動家を初逮捕(29日)。李登輝・元台湾総統死去(30日)。香港行政府長官、立法会選挙の1年延期を発表(31日)。ドイツ、香港との犯罪人引き渡し条約停止(31日)、などです。
今回は香港の立法会選挙一年延期について説明します。
香港政府トップの林鄭月娥(りんていげつが)行政長官は7月31日夕、記者会見を行い、9月6日投開票の予定だった立法会選挙を1年延期し、来年9月に実施すると発表しました。延期の理由は新型コロナウイルス感染拡大防止のためです。
林鄭氏は「市民のために」の言葉を繰り返しました。「選挙を安全に行うには懸念がある。市民を守るために」と述べ、「延期は最も困難な決定だった」と語ったのです。
民主派のリーダー黄之鋒(こうしほう)氏は同日の記者会見で、「政府はコロナを政治利用している」「中国、香港両政府が、民主派の勝利を恐れているだけだ」と批判しました。
立法会条例は選挙を延期できる期間を、最長2週間としています。政府は1年延長を実現するため、「公共の安全に危害が及ぶ状態」などと認めた場合に超法規的措置が可能となる「緊急状況規則条例(緊急法)」を発動すると説明しました。
立法会選挙は4年に一度(返還された1997年以降)行われてきました。18歳以上の住民による直接選挙枠と、貿易、金融など業界別の有資格者が投票する職能代表枠に分かれています。それぞれ35議席ずつ、計70議席で議会は構成されます。職能代表枠は中国と結び付きが強い財界の意向が反映されやすく「親中派」が有利な仕組みとなっているといわれています。
親中派では、新型コロナウイルス感染拡大を理由に立法会選挙の延期を求める声が強くなっていました。
香港選出の全国人民代表大会常務委員・譚耀宗(たんようそう)氏は、「もし疫病が原因で投票を避ける動きが出るなら、正常な選挙ではない」と、7月20日、香港島中心部での親中派有力政党候補者の出陣式に出席して語っていました。そして、「選挙までに感染が抑え込まれると保証できるのか。政府は真剣に延期を検討すべきだ」とも語っていたのです。しかし本音は民主派の勢いに対する警戒です。
米国のポンペオ国務長官は8月1日、香港政府が立法会選挙を1年間延期すると発表したことに関して、「それほど長期間も延期する正当な理由は何もない」と批判する声明を発表しました。
「香港では二度と投票ができなくなってしまいそうだ」と懸念を示し、「選挙はできるだけ9月6日に近い日に、香港の人々の意思や願望を反映する方法で実施されるべきだ」として、香港政府に再考を求めています。
香港を支えてきた民主的なプロセスと自由がさらに後退しつつあるのです。