夫婦愛を育む 123
父が受け止められなかった苦難、息子が甘受して父母を解放

ナビゲーター:橘 幸世

 元受刑者を積極的に雇用してきた建設会社社長夫人を取り上げたNHK『逆転人生肝っ玉母さんの波瀾万丈』。
 人を感化していく過程を描いたものと想像していましたが、見てみると、肝っ玉母さんこと静江さんの下で育った息子さんの生きざまに、とても深い感銘を受けました。

 静江さんが元受刑者たちと真摯(しんし)に向き合って数年、彼らは真面目に働くようになり、会社も軌道に乗っていたある時、社長である夫が難病にかかります。

 余命宣告された彼は、現実を受け止められず自暴自棄になります。酒に逃げ、会社を放り出して夜の街で遊びまくる日々。愛人をつくって会社の金を使い込み、借金を積み上げます。

 静江さんはやむを得ず、夫に変わって経営に携わります。やがて夫は他界。会社を続けていく気力を失った彼女でしたが、17歳の息子の「自分が会社を継ぐ」という言葉に励まされ、再び頑張ります。

 父が立ち上げ、母が守ってきた会社を息子が立て直す。このまま行けば、母の苦労が報われるハッピーエンドと思われました。けれど、神様はさらなる試練を与えられます。

 新しい体制になって経営も落ち着いてきた頃、父を襲った難病が今度は息子に襲いかかります。舌がもつれたり次第に手足の動きが奪われたりしていく病気。父の姿を見てきた息子は、自分の運命にただただ涙を流すばかりです。夫と息子二人が同じ難病という事態に、静江さんの心中は察するに余りあります。

 社員たちに病気のことを伝えると、彼らは一様に「何でも言ってください。自分たちが支えます」と言いました。今は独立して自分の会社を持つ元受刑者も駆け付け、仕事を手伝うと申し出ました。

 息子さんの代になっても元受刑者の雇用は続けていて、社長自らも彼らの教育に携わってきました。母子二代から愛を受け、育て直してもらったと感じている社員たちが一丸となって支えたのです。

 皆に支えられながら経営を続ける息子。ある日ポツリと母親に言いました。

 「俺、病気になってよかったよ。そうでなければ(刑務所に入るような生き方になった)弱い立場の人たちの気持ちが分からなかった」

 霊界にいる彼のお父さんも、地上で苦楽を共にするお母さんも、この一言にどれほど慰められたでしょうか。
 父からすれば、自分はやけになってしまったけれど、息子はそれを受け止めて昇華してくれた。母からすれば、やけにならずに受け止め、社長としての務めを放棄しなかった息子と、今度は一緒に立ち向かっていける。

 今彼は車椅子に乗って、全国の刑務所を回り就職を希望する受刑者の面接をしています。元受刑者を積極的に雇用し社会復帰の力になろうという企業のネットワークでも活躍しています。

 一筋縄ではいかない社員たちの世話、夫の病気、愛人、借金、経営の苦労、さらには息子の病気。何度も地獄を見てきながら精いっぱい生きてきた静江さんの人生の結晶が、前を見て生きていく息子さんの姿であると感じます。
 この二人から、どれほどの人が力をもらっているでしょうか。


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