2020.06.18 22:00
氏族伝道の心理学 5
怒り
光言社書籍シリーズで好評だった『氏族伝道の心理学』を再配信でお届けします。
臨床心理士の大知勇治氏が、心理学の観点から氏族伝道を解き明かします。
大知 勇治・著
第1章 不安と怒り
怒り
では次に、怒りとは、何でしょうか。
私は、相談に来る人に対して、「怒りとは、『破壊衝動』ですよ」と説明しています。怒っているときは、物を壊したくなりませんか。物を壊すとちょっとすっきり、という体験もあるかと思います。怒りは破壊衝動なので、物を壊したくなります。夫婦げんかをすると物が壊れますし、子供たちが怒ると、壁に穴を開けたり、ドアを壊したりします。
怒りは物を壊すだけではありません。人も壊します。暴力というのは、怒りの破壊衝動が他者に向いたものです。ですから、暴力は相手を傷つけ、壊していくのです。暴力は、殴る、蹴るなどの身体的な破壊だけではありません。言葉の暴力も同じです。相手を傷つけ、破壊していくのです。冷静に話ができる時には、謝ってくれれば許せることでも、怒りが出てくると許すことができなくなります。「謝って済むと思っているのか!」などと言って、どんどん相手を攻撃していきます。怒りは破壊衝動なので、相手が泣き出すなどして、相手が傷ついている、ということが確認できないと収まらなくなるのです。
怒りは物や他者も壊しますが、自分自身も壊していきます。ですから、怒りの大きい人は、様々な病気にかかるリスクが高いと考えられています。
タイプAという性格分類をご存じでしょうか。
タイプAとは、1950年代に米国の循環器科医師フリードマン(Friedman)とローゼンマン(Rosenman)が見つけたもので、心臓疾患の発生リスクが高い性格行動特徴です。
タイプAの特徴は、「短気である」、「野心的である」、「敵意(怒り)をもちやすい」、の三つが挙げられています。さらに、1970年代にデューク大学のレッドフォード・ウイリアムズ(Redford Williams)博士は、それら三つの中で、どのリスクが高いかを調査しました。その結果、敵意が最もリスク要因であり、敵意の高い人は、そうでない人の二倍以上の割合で心臓疾患になりやすいことが明らかになりました。
また、タイプCという性格分類もあります。これは心理学者のリディア・テモショック(Lydia Temoshok)とサイエンスライターのヘンリー・ドレイア(Henry Dreher)によって見いだされたもので、癌患者に多く見られる性格行動特徴です。彼らは150人以上のメラノーマ(悪性黒色腫)患者を面接し、その約4分の3に次のような共通の性格的特徴があることを認めました。
①怒りを表出しない。過去においても現在においても、怒りの感情に気づかないことが多い。
②ほかのネガティブな感情、すなわち不安、恐れ、悲しみも経験したり表出したりしない。
③仕事や人づきあい、家族関係において、忍耐強く、控え目で、協力的で譲歩をいとわない。権威に対し従順である。
④他人の要求を満たそうと気を遣い過ぎ、自分の要求は十分に満たそうとしない。極端に自己犠牲的になることが多い。
(『がん性格タイプC症候群』L・テモショック、H・ドレイア著、岩坂彰、本郷豊子訳、創元社より)
タイプCの特徴を見ていくと、教会員が癌になりやすいというのはうなずけます。もちろん、自己犠牲は悪いことではありません。私は、この四つの特徴の中で、怒りの表出ができていないことが、最も大きな問題だと感じています。
ただし、怒りを表出することが良いというのではなく、処理されていない怒りが蓄積されていることが問題なので、怒りをため込まずにどのように処理するかというように考えていくべきでしょう。
また、病気になるだけではありません。自分を傷つけるようなこともします。自傷行為、という言葉を聞いたことがあるかと思います。自分を傷つけることで、手首をかみそりなどで切ってしまうリストカットが有名です。自傷というのは他傷(相手を傷つけること)の裏返しですし、自殺は他殺の裏返しです。つまり、怒りが自分に向かうと、自分を傷つけるようになるということです。
このように、怒りはすべてを破壊していきます。怒りからは何も生まれてきません。怒りを動機にして何かを言っても、相手を破壊し、お互いの関係を破壊していくだけです。ちなみに、組織の中で一番厄介なのは、「怒って正しいことを言う人」です。怒りっぽくても、めちゃくちゃなことを言っている人は、誰も相手をしなくなるので問題はあまり大きくならないのですが、怒って正しいことを言われると大変です。正しいことを言っていれば、その人の話を聞かないわけにはいかないのですが、怒りは相手との関係を壊しますし、組織自体を壊していきます。ですから、聞く人は大変ですし、会議の場でも、その発言内容を検討するよりは、発言者の怒りにどう対応するかということに意識を奪われてしまいます。組織にとっても、怒りの大きい人は問題なのです。
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次回は「『怨み』と『恨み』」をお届けします。