世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国の全国人民代表大会開幕~直面する経済危機

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は5月18日から24日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 トランプ大統領、世界保健機関(WHO)からの脱退を示唆(18日)。ポンペオ国務長官、WHOからの台湾排除は「中国の圧力で」と批判(18日)。日本の外交青書、台湾のWHO参加支持明記(19日)。韓国検察、慰安婦支援団体(正義連)を捜索=不正会計疑惑(20日)。中国、全国人民代表大会開会、初めて経済成長率目標設定せず(22日)。安倍首相、公務員法改正案見直しを表明(22日)、などです。

 異例ずくめの中国・全国人民代表大会(全人代)が522日、開幕しました。
 28日までの1週間です。毎年恒例の国家の最高権力機関と位置付けられている重要会議です。35日開会予定が新型コロナウイルス感染症対応で2カ月以上延期されました。本来会期は2週間ほどですが、今回は1週間です。

 今回は特に、中国・習近平政権が直面する雇用、失業問題を説明します。

 例年、全人代で国家運営全般の年間計画が明らかになり、討議を経て採決されます。
 中でも、内外で最も注目されるのは国内総生産(GDP)成長率目標です。特に今年2020年は、共産党が定めた長期目標「小康(ややゆとりのある)社会の全面的実現」を達成する節目であり、2020年のGDP成長率を2010年比で倍増させる数値目標があるのです。

 この目標を達成するためには、20年に実質成長率5.6%程度が必要なのですが、実現は困難と判断したのでしょう。李克強首相の政治活動報告(所信表明に当たる)では、全く触れなかったのです。目標設定自体が見送られました。

 中国経済は異常事態に陥っています。政権は、国家を安定させるギリギリの線を維持しようとしていると見られます。報告における今後の計画の中で一番重要なのは「雇用」であると繰り返しました。

 コロナの感染拡大事態で最も影響を受けたのは、飲食業など農村からの出稼ぎ労働者が支える業種でした。雇用を支えなければ社会的な不安定要素になります。サービス業全体の労働人口は約37000万人で、関連企業は大半が中小企業です。

 331日、「中国首席経済学者フォーラム」のメンバーである劉陳傑氏が「財新網」(調査報道メディア)で論文を発表しました。
 その内容は、感染の影響で中国全体の失業者数がなんと2億人以上に上ることになるだろうと予測したのです。中国の労働人口は約8億人ですが、その4分の1が失業する計算になります。

 経済問題が深刻な社会・政治問題になれば、政権の命取りになりかねない状態なのです。